ぼくときみと
ぼくは光が怖い。外の世界は眩しいし、本丸に降り注ぐ太陽は、男士達を更に光り輝かせた。初期刀にすら姿を見せず地下に閉じこもり、姿を現さない審神者を男士は訝しんだけど、近侍であるあの太刀だけは、地下深く、長い階段を毎日上り下りして、元気な声を届けてくれた。主殿、主殿、息災であるか、今日も皆良く戦っておったぞ、主殿の采配のおかげである。本丸の誰よりも眩しく温かい笑みを、一度だけ覗き見たことがある。高潔で真っ直ぐな声が、快活に笑う口元から届く。とても美しい刀だった。ぼくなんかとは違う。きみに、ぼくは恋をしていたんだ。
ある日、微睡んていたところに元気な声が聞こえてきた。短刀たちの遊ぶ声だろうか。ぼくは何故だかとても興味を惹かれて、ずるずると重たい躰を引き摺って地上を覗きに行った。夕暮れ時で、夕陽を背に受けていたので、一人一人の顔は分からないけれど、楽しそうな笑い声に、つい、ぼくも飛び出してしまった。けれど歩きなれていないので、派手に転んでしまう。膝を擦り剥き、何時の間にか短刀たちはいなくなっていて、ぼくは泣いてしまった。その時、聞き慣れた笑い声が間近で聞こえた。
「主殿?」
きみはいつか見た、青空で染めた髪をして立っていた。内番帰りなのか手拭を首から掛け、ふわりときみが笑う。ぼくの姿は見えないのだろうか。きみはしゃがみ目線を合わせ、ぼくの頭に大きく暖かな手が乗せられる。
「如何なされた、主殿? 珍しいな、外に出られたのか」
「み、みないで、さわっちゃ、だめ」
「主殿、?」
たまらず背を向けたぼくをきみが呼ぶ。立ち止まらずに、自分の目で初めて見る本丸を横目に、人の気配の無い方へ走った。こんなに走るのは初めてで、でも、走ると言っても慣れていない足取りは遅く、すぐに息切れする。でもなぜかきみは追い付かなかった。嫌われてしまったのだろうか。ぼくの醜い顔を見て、嫌われただろうか。どうしようもなく悲しくて、ふいに足が軽くなったのに気付いて、ぼくは慌てて手近な部屋に駆け込んだ。時間だ。日はほぼ沈みきり、月が顔を出していた。
「主殿……?」
「!! だめ、きみには、みせたくな、!」
簡単に追いつかれていたのか、きみが襖を開けた。窺う様に顔を出したきみと、目が合って、そして。
「みないで、きみにだけは――……!」
そしてぼくは、姿を変えた。ぼくの躰を夕陽の一筋の緑の光が貫き、ぼくは、夜の姿になった。
「!!」
重たい躰を引き摺り、畳に液体がこびりつく。驚愕に見開いたきみの顔を直視できず視線を逸らしたけど、きっときみには分からないだろう。顔の場所すら定かではないのだから。蠢く何本もの感覚肢が、半透明の緑色をして揺らめいている。そう――ぼくは、悍ましく醜い触手へと姿を変えていた。
「な……!」
嗚呼、怯えた顔をしている。当然だ、ぼくは醜い。嫌われてしまった。きみにだけは、この姿を見られたくはなかったのに。
物心ついたとき、交通事故でぼくは生死を彷徨い、受けた手術の副作用で、この呪いのような姿に、日の光の届かぬ間、変化してしまうようになった。それからだ、太陽を見ると、沈むのが怖くなる。喉がからからに乾いて、仕方なくなる。だから、ぼくは、光が嫌いだ。おまけにこの姿では話せない。表情も分からない。きみが床にぺたりと座り込んでしまう。
「主殿が、妖に喰らわれてしまった……」
違うよ、これは、ぼくの、本当の姿。嗚呼。そう、これは呪いなんだろう。
「主殿、主殿、今、拙僧が、お助けいたす」
引き抜かれた太刀が、きらきらと輝いていた。間近で見たきみの本体は、とても美しかった。元より抵抗する気にもなれずじっときみを見つめていると、逃げもせず襲いもしないのに疑問に思ったきみが刀を下ろす。話せないぼくに、唯一あるのは右腕にあたる触肢の先から伸ばせる黄色く細い毛束のような感覚手だった。それをゆっくりと、きみの額にくっ付ける。ぴりりと電流が走り、きみは驚きながらもぼくから視線を外さず見つめてくれていた。
『だまっていてごめんね、ぼくは、きみをこわがらせたくなかったの』
「っあ……るじ、どのなのか……?」
『昼は昼の姿、夜は夜の姿、二つの姿を生きる……これがぼくの、のろい』
「そんな、呪いなど」
『きらいになってもかまわない、ぼくは、みにくい、きみもこわがらせてしまった』
「……主殿、拙僧は、主殿を怖がっておらぬ」
穏やかな声に、視線を上げる。柔らかく微笑むきみが、ぼくの腕を、取っていた。今のぼくの感覚は昼の数倍で、ずっと鋭くなっている。きみの汗の匂いも、きみが嘘をついている声色じゃないことも、ぼくは分かった。
「主殿は決して醜く等はない。もっと己に自信を持たれるが良い」
『……きみは、やさしいね』
けれど。ぼくは、ああ。この姿のぼくは、だめなんだ。きみを、きみを。
『ごめん、ごめんね、ぼく、きみがほしい。がまん、でき、ない』
「我慢などせずともよいのだ、主殿」
しゅるしゅるときみに巻き付くぼくの腕を、きみは拒絶しなかった。蠢くぼくの腕を、きみが愛おしそうに頬に寄せる。滑らかな肌が吸い付き、ぬめる液体がきみを汚した。ああ、きみはなんて美しいのだろう。
『すき、すきなの、すきなんだ、きみが』
「拙僧が、主殿を受け止めようぞ」
主殿。拙僧も、主殿を好いておるぞ。陽はとっくに沈んだのに、きみの微笑みは、まるで太陽だった。もう、怖くはない。燦々と降り注ぎ、絶対に沈むことなく、ぼくを照らしてくれる、ぼくだけの、太陽。見失わないように、腕を回し抱き付いた。
「ん゛っ……主殿、んぶっ、んあっ♡」
この姿のぼくは、きみの大きな体を持ち上げて空中に固定するのは簡単だ。きみも大人しく身を任せ、両手と口を使いぼくを気持ち良くさせようとしてくれている。
「んぢゅっ……あむっ♡」
溺れてしまいそうな快感に、人間の姿だと腰砕けになっていただろう。ぼくは口を窄め吸い上げるきみの口の中の甘い味を貪った。きみの肉厚な舌がぼくと絡み合い、恍惚の顔で無数のぼくの腕を体に這わせ、艶めかしく腰をくねらせた。綺麗な桜色に色付きぷくりと勃ち上がった乳首を、ちゅうちゅうと赤ちゃんの様に吸う。片方は小刻みに振動させ、捏ね潰し引っ張ってみれば、重く響く囁きが聴覚を震わせた。
「んいっ♡は、そこっ……は、そんなに、吸っても乳は出ぬぞっ♡」
ぺちゃぺちゃ、ぢゅるぢゅる、音を立て啜る。ぼくは夢中で、何もかも甘く蕩けそうなきみの躰を全体で味わう。おいしい、おいしい。もっともっとと、性急におちんちんを擦るぼくを、きみがやんわりと静止した。
「ふはっ♡主殿はぁ……せっかちであるな♡」
とろりと甘い蜜を溶かした様なきみの目がぼくを視る。ジャージに擦れ、ぼくの腕がきみの中で蠢いて、肌蹴た健康的な素肌は蜜色に染まっている。行燈の焔が揺らめくたび、きみの彫物も共に揺れ、鮮やかな色でぼくを煽る。ぼくの粘液で逞しい肉体が照り返し、艶めかしく踊るきみが妖しく微笑んだ。
「主殿ぉ……♡」
M字に大きく膝を広げ、ひくひくと収縮する桜色の蕾をぼくに見せつけ、きみが誘う。しなやかな指が肉付きの良いお尻を掴み、粘液を擦り付けた。
「主殿、拙僧は、主殿に隠し事がっんう、あるのである……近侍を仰せつかった晩、主殿のその姿、拙僧は見てしまったのだ……」
それ以来、主殿とこうして目合うことばかり望んでおったと。全身を色付かせたきみが言う。山籠もりと言っては一人、己を慰める日々だったのだと。
「主殿、煩悩を捨てきれぬ憐れな拙僧を、溺れさせてくれ……♡」
恍惚の笑みを浮かべ、ぼくの触肢へ頬擦りしながら。ああ、なんてことだろう。
『ぼくも、きみにこうしてふれたかった、ずっと! きみがすきなの、きみが、ほしい!』
「どうしようもなく、愛おしいのだ主殿……」
歪んでいると言われることもあるだろう、奇妙だと、悍ましいと侮蔑されることもあるだろう。それでも、ぼくは、きみを。ぼくらは、同じなのだ。足りない半身を今、一つにしよう、ぼくときみは、同じだ、一つになろう。
「さぁ、主殿……♡」
『うん……!』
細い幾本もの副器官が、きみの蕾を割り開き、中へと入ってゆく。滑る液体のおかげか驚くほどすんなりと内壁を過ぎ、ずるずると奥へ奥へ進んでいった。狭い入口とは打って変わって中は熱く優しくぼくを包み込んで、啄ばむ様に締め付けてくる。それだけで堪らないのに、躰を小刻みに震わせて耐えるきみの表情はとても可愛くて、ぼくは夢中で全身を味わい尽くした。脱げかけだったジャージはどろどろになり下へ落ち、一糸纏わぬきみの躰中に、赤い炎が躍る。肉鞘を割り開き抜き差しを繰り返すぼくが小さなしこりを押せば、甘い嬌声が迸った。
「んあっ♡は、あ゛っ……! あっるじ、どの……そこ……良い」
きみのイイトコロが見つかりうれしくて、ずくずくと何度も何度も強く擦り上げる。腫れたおちんちんも、熟れ切った乳首も、涎を垂らす蕾も刺激してあげる。こしゅこしゅ、ぴちゃぴちゃ、じゅぷじゅぷと、水音に交じり小さく喘ぎ声が聴覚に届いて、感じてくれていると嬉しくて、もっともっととしゃぶりついた。
「はぁっんんっ……♡んぅ、くっ……はひっ、あ、あぁ♡」
時折おちんちんからぴゅうぴゅうと先走りが飛散し、蠢くぼくの腕を舐め、両手でぼくを抱き締めて、ぼくの粘液に染まったきみがぼくをどんどん熱くさせていく。
「主殿……っあ、っぁ!」
大きく背を仰け反り、きみが達した。玉袋を揉みながら、出口に補手腕の細い管を刺し入れ掻き出す。きみの精子すらとても甘くて、強く吸い上げると戸惑った様に声を荒げた。
「イッ……へ、あぅ、痛、の˝にっ、あ゛♡」
おちんちんがぶるぶると震えて、すぐに精液が噴き出してきた。余す所なく飲み干し、取り込む。甘い、おいしい。きゅうきゅうとしがみ付く内壁に、ぼくの精子も注いであげた。狭いナカはぼくでいっぱいになって、それでもぼくは奥を目指せる、きみの知らないようなところまで。生殖のための、いっとう太い触主腕を、すっかり解れふやけた入口に宛がうと、耳に感覚手を当て囁いた。
「あるじどの……もっと……」
『ぼくももっと、きみがほしい。きみとひとつになって、とけてしまいたいの』
「あっ……せ、そぉ、も♡ すき、すきだ、あるじどの」
『すき、だいすき!』
つぷりと、感覚手と、生殖手が同時にきみを穿つ。耳孔に差し込まれた金色の感覚手から、ぼくの感覚ときみを繋いだ。ぼくを内に銜え込みながら、きみのナカに啄ばまれるきみの感覚を共有する。痙攣し蕩けた顔で、きみの躰が跳ねた。許容量を超えた太さの生殖手に突き上げられ、空中で舞い踊るきみは、とても、とてもきれいだった。
「ひっ♡ あ゛ぁっ……お゛ア゛ッ♡ あ、あぁーーッ!」
ひっきりなしに、もがきながら喘ぐきみを、構わず突きながら。すきだと、全身で伝える。送り込まれる電流に跳ね、ぼくを受け容れるきみが締め付け応えてくれる。何もかも甘く熱く蕩けてしまいそうで、ぼくの感覚も送られるきみは快感に押し流されているだろう。上も下も涎が垂れっぱなしで、連続で絶頂し続けおちんちんは垂れ下がり、役目を果たせていない。水音と、きみの嬉しそうな悲鳴と。大丈夫、結界が張られた部屋には誰も邪魔者は入らないし、外へ漏れ聞こえる心配なんてない。乱れ狂うきみが、声を枯らして喜び泣いていた。
「ひぃ、え˝あ゛っ♡ ああぁああ、ああっ……んいいぃ、あ゛ひっ……いぃ♡」
生殖手からは絶え間なくぼくの子種が注がれ続けている。吸い続けた胸も、おなかも、ぽっこりと膨れていた。ぼくとまざりあったきみの体液を、余すところなく飲み干し、もっととせがんだ。
「無っ理らぁ♡とろけへひまぅ……ん゛うぅ♡」
強く吸い上げれば、乳首から蜜が溢れた。きみの口を覆い、穴という穴を侵し、深く深く、混ざり合っていく。
「ひっい゛いぃ♡あ゛う゛あ゛ぁぁーー……!!」
壊れてしまえばいい。ぼくときみと、ずっと、こうしていようよ。いつか、融け合って。そして。
「~~~~ッ♡♡」
快楽に狂ったきみが、ぼくの名を呼び、気を失った。幾度も失っていてその度に揺り動かしていたけれど、その日はそれ以上きみが動くことはなかった。
夜ごと、本丸の地下でぼくときみは愛し合った。どんなに傷付き帰還しても、ぼくの手入れできみは回復し、ぼくを受け入れた。いつかきみと離れてしまう時が来るかもしれない。望まぬ別れが来るとしても、それでも、ぼくはきみを。
「主殿……♡」
きょうもきみは、とても、きれいだ。