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  人は見た目で判断してはならぬ。刀もだ。

 

 朝晩の冷え込みも辛くなってきた、冬へ近付いた、短い秋の晴れやかな空の下。内番を割り当てられた刀剣は遅い昼餉を、厨番連中からの握り飯の差し入れを摂っていた。卵焼きと漬物はそれぞれに別けられ、談笑にも花が咲く。

 朗らかに、快活に笑う太刀の整った横顔を、同田貫正国は隣でぼんやりと眺めていた。山伏国広とは今日共に馬当番へ充てられ、馬小屋の掃除から毛並みを整え、午後は干し草を敷き軽く運動させてやろうと画策していた。握り飯を持ったまま、会話の内容も聞き流しながら、ただぼうと眺めては、人知れず溜息を吐く。

「うむ、直に山も紅葉しよう、それも過ぎれば、あっという間に一晩で雪化粧に覆われるであろうな。今頃は栗鼠が団栗を溜め込んだり、狸もふっくらと肥え冬支度に勤しんで居る頃である」

「りすさん、見てみたいです」

「なぁ、たぬきも蓄えてんのか??」

「……はっ? あ? 俺はたぬきじゃねぇし」

 妙に大人しい同田貫を気にすることなく、話題は移り変わってゆく。虎を撫で抱えながら、五虎退が首を傾げた。

「山伏さんもなにか、ふゆじたくしてるんですか?」

「うむ。拙僧はほれ、このように鍛えておるからな。日々の修練を怠らぬことが、云わば冬支度と呼べようか」

 指へ付いた米粒をぺろりと舐め取り、山伏はやおら立ち上がると軽々と同田貫を抱え上げてしまう。しかも片手で米俵のように肩に担がれ、堪らず狸は牙を剥いた。

「てっテメェ、何しやがんだ!」

「カカカ! 同田貫は軽いな!」

 どうどうと馬か幼子の様に背を摩られ、カッと顔に朱が灯った。下駄を含めると本丸でもかなりの大柄の部類で、更に鍛え上げられた分厚い肉体は叩いたくらいではビクともしない。

「ッ……降ろせよっ、この筋肉ダルマ!」

「カカカカ! 褒められてしもうた」

「山伏スゲェ! 次俺、俺も!」

「応、順番であるぞー……と言いたいところだが、すまぬ、そろそろ拙僧らは戻るでな」

「オイコラッ勝手に決めてんじゃねー!」

「えー、じゃ、終わったらな、終わったら絶対だかんな!」

「あ、あのっ、ぼ、ぼくも……」

「勿論である! 約束であるぞ!」

 呵々と笑いながら躰が傾き、山伏が屈んだと分かる。本当に子共の様に抱えられたまま、此方を指差し笑う短刀らを睨みつけ、同田貫は馬小屋の傍まで連れられてきた。

「同田貫、あまり拙僧を見てくれるなよ」

「……あ? 見てねぇよ」

「何か顔についているかと思うたぞ。前々からお前の視線を感じていたが、何ぞ拙僧に言いたいことでもあるのか?」

 壁際へ降ろされたと思ったらそのまま壁を背に同田貫は、にやにやと見慣れない笑みを浮かべる山伏を見上げた。内番の時くらい脱げば良いものを、下駄の分更に広がる身長差に見上げる首が軋んだ音がした。内心心音は大音量で騒ぎ立て、感情が露呈しないように、いつも以上に仏頂面になっている。

 そう。同田貫は、山伏を密かに懸想していた。己とは何もかも違う太刀のことは、最初こそ口の巧く綺麗事を言うだけのいけ好かない野郎だと思ってはいたが、言葉だけではなく内面に裏打ちされた真摯さに、いつしか惹かれるようになっていた。表面上はそのままを装い、気付けば目線はあの背の高い太刀を探し、あの抜ける様な碧は触れれば柔らかいのかとか、あの逞しい胸の奥の心音はどんな音を立てているのかだとか、いつか隣に立ち、同じ景色を見たいだとか、そんな細やかな願いが今唐突に眼前で。影になり間近で見る顔はやはり端整で、纏う独特の匂いに酔ってしまいそうだった。

「ッ――!」

 ドン、と鈍い音を立て、顔の横を通過し背後の壁へ、山伏が手を付いた。同田貫は突然のことに目を白黒させ困惑し、そのまま反対の手が細い顎を取り、くいと持ち上げられる。

「気付かぬとでも思っておったか?」

「っ山伏……?」

「カカ、そう怯えるな。……懸想していたのは拙僧とて同じ、ということだ」

「え、はっ……?」

 何と。今なんと。ニカ、と余裕の笑みの山伏に対して、こちらは顔から火が出ている様に熱い。同田貫は固まったままぽかんと口を開け、唇を滑る指にヒク、と口を引き攣らせた。

「心配せずともお前の熱視線、他の者は気付いていまいよ」

「同じって、つまり、それ」

「何だ、行動で示さねば自覚せぬか?」

 いとも簡単に距離が縮まる。気付けば、唇に、柔らかく濡れた感触。これは。

「っん、ふ、……」

「ぁ、っ」

 滑る熱い舌が歯列をなぞり、ぞくぞくと背を這い上がるものを感じる。じいとこちらを見据える深紅に、欲望を見透かされる心地だった。

 


――
 

 

 

 人は見かけで判断しちゃならねぇ。特に、刀はな。


 

「や、やめろって、な、なにすんだよ」

「分からぬわけでもなかろう?」

「昼間だし外だろうが!」

「大声を上げても届かぬよ、ここは離れだ」

 顔を真っ赤にしながらの静止の声を無視し、下穿きを擦り降ろす。褌を押し上げ主張する自身を覗き込む。壁を背に狼狽えながらも逃げない同田貫が心底可愛くて愛おしい。幼い顔立ちは戦において凛々しく雄々しく姿を変え、かと思えば己を好いてくれているのが大変分かりやすく、愚直で稚拙な感情は慕情と独占欲とが綯い交ぜだ。しかし、互いに血気盛んな若者の人間の身を借り、虚しく慰めるのも飽いていたところだ。何より愛くるしい小柄な体は抱けばしっかりと肉付きの良く、汗の匂いは雄の欲を共鳴するに相応しい。

「お、仮性か?」

「触んなッ……手前ぇでやれる」

「固いことを抜かすな、拙僧に何もかも委ねると良い……」

 酸っぱさと汗とで饐えた匂いも、山伏にとっては口元の笑みを深めるだけであった。後ろから抱き竦めながら、緩く勃ち始めた陰茎を、掌全体で覆ってやる。まだ少し柔らかく、皮を被ったままでは苦しかろうと片方の指でカリ首を抑え、痛みの無い様にゆっくりと、擦り下げていってみる。

「っう……」

「すまぬ、痛むか?」

 目尻に涙を浮かべ、熱い息を吐きながら同田貫が睨み付けてくる。大きな目だ。余り意味も無いぞ、と思いつつ、殊更丁寧に剥いてやる。濃厚な匂いが鼻腔の奥を衝く。使い込まれていない、鮮やかな肉色の亀頭からは既に先走りが滲んでいた。

「ふふ……綺麗に剥けたな」

「っくそ……」

「恥ずかしがることはないぞ、体格に比べ随分と立派である」

 長さはないが太く逞しい起立を指でつつく。ピクピクと震え、更に滲み出てきた粘液を潤滑液に扱いてやる。本人は嫌がるだろうが、たぬきの渾名に恥じない睾丸は真新しい陰茎と異なり黒ずんで、前後する腰に合わせ揺れていた。まるで犬の様に荒く呼吸しながら快感に震える、見下ろす同田貫の視線は朧気だ。

「どうだ……気持ちいいか?」

「あぁ、ああ……きもちい」

「腰が揺れておるぞ、盛りの付いた犬の様だな」

「っうるせ……アンッタが、煽ったんだろうがッ」

 嗚呼、素直ではないところも愛らしい。こめかみに口付けを落とし、山伏は内番着の隙間へ手を滑らせる。平坦な胸をまさぐり、まだ柔らかい胸の頂を摘まんでは、片手で陰茎をグチュグチュと水音を響かせ激しく扱く。

「っ……う、」

「出そうか……?」

 抱える男は腰を振りながら、息も絶え絶えに頷く。山伏は淫蕩な笑みを浮かべながら、両手を使い竿を擦り上げ絶頂へと導いた。

「っう……!」

 ドプ、と濃厚な精液は温かく手を汚した。残った子種も絞り出していると、汗を滴らせる同田貫と目が合う。潤んだ眼は濡れ光り、まだ満足していないと強く主張していた。戦場で見る横顔と同じ、獣の鋭さを滲ませている。

「あまり急くでない、慣らさねば、入るものも入らぬであろう?」

「っそう、だけどよ……な、山伏、口吸いがしてぇ」

 甘える様な、普段より僅かに高い声。恥じらい上気する頬。衆道は主に、成長途中の少年の時から慣らすものだ。少しずつ穴を馴染ませる、拡げる痛みは適性の無い者にとっては激痛というが。指に付着した粘液を舌で掬い取り、舌先で転がし口を開ける。腕を緩めればくるりとこちらに向いた同田貫が、意地らしく踵を上げ顔を近付けてくる。山伏は瞳を閉じねだる打刀に気付かれぬ様に、下駄を放った。体勢を崩し最中に押し潰しでもしたら大変だ。先程より熱を帯びた滑りが今度はあちらから割り入り、舌を絡ませ応える。

 と、同田貫がふいに、山伏の腰へ腕を回す。抱き付いてくるのかと思ったが、次の瞬間、下穿きが膝まで擦り下ろされ目を見開いた。

「っは、アンタ、穿いてねぇのかよ……」

「ん、むっ?!」

 陰茎が滑りながら擦れ合う。尻たぶを割り開かれ、あろうことか山伏の菊座に――同田貫の筋張った指がヒタ、と当てられる。

 山伏は面食らい、サッと全身の気が引いていくのを感じた。今の今まで、そう、先程の瞬間まで、己が“挿入れる”側だとばかり思いこんでいたのだ。

「んく、ま、まてッ、ど――」

 同田貫の粘液で濡れた指が、山伏の後孔へ突き入れられた。

「ひっ……!」

 想定外の感覚に肩が震えた。そのまま躰を反転させられ、壁へと押し付けられる。下穿きを膝まで下げられては身動きも取れず、穴を穿る異様な感触に力が入らない。

「あ、っ、ひ、っぅ」

 上手く呼吸できぬまま、山伏は身を震わせた。何故今自分がこのような状態なのか、無様に下半身を晒し、同田貫の指が胎内で蠢いているのか、分からない。

「ひ、なん、っん、ぁ、な、なぜっ……なんっ、せ、っそおがっ」

「……は? アンタ、俺に突っ込むつもりだったんかよ? んなわけねぇだろ」

 滑りが良くなり、厭らしい音を響かせながらナカを掻き混ぜられる。膝が震え、躰を支えるために両手を壁に付いてしまえば、同田貫にされるがままだ。顔が見えない、姿が見えない恐怖。何故、なぜ。山伏は気付かない。見えない背後で同田貫が双眸をギラ付かせたのを、慣れない筈の後孔を嬲られ痛みを感じないことを。

「ひ、ぃ、んっ、あ、ぅ……」

「なァ分かるか、俺の指、吞み込んでるの……」

「っわか、っるか……っぬけ、ッん」

「あんなに余裕ぶってた癖に……こっちはもう、」

 グリ、と質量を持った指が奥を抉る。背筋を這い上がる感覚が、如実に全身を伝い躰が跳ねた。痛みではない。不快感でもなければ、ましてや嫌悪感でもない。

「ひゃ、あ! んっ……あう……」

「すっかり出来上がってるみてぇだな?」

 縁にかけた指が震えている。膝に力が入らず、尻を突き出すような格好になっており、生理的な涙が滲む。痛みこそないが異物が出入りする感覚は、嗚呼、これは。

「嬉しいよ山伏、アンタを手に入れられるなんて」

「っや、やめ、よせッ……」

 耳元で囁かれる低音は、これから獲物を喰らわんとする雄のそれだ。胎内を蠢く指が引き抜かれ、代わりに当てられたのは、先程自分の掌に吐精した彼の肉刀だと、理解してしまった。抵抗虚しく躰に力は入らない。

「まてッ、せ、っそ、こんな、つもりじゃ――」

「何言ってンだ、こんな、物欲しそうに涎垂らしやがって! これ、がッ、欲しイんだ――ろッ!」

 パァンと子気味良い音を立て、あっさりと、剛直が股座を貫いた。勢いのまま躰を押し上げられ、浮ついた指先が引き攣れる。胎内の空気ごと、開いた口から吐き出されてゆく。限界を超え無理矢理侵入を試みる肉の楔が衝き込まれた。

「――ッひあああああぁっ?!」

 衝撃が脳天から指先へ、断続的に駆け抜けてゆく。背を仰け反らせ、無意識に押し寄せる奔流から逃れる様に身を捩り、却って同田貫を深く咥え込んでしまう。

「っひ、あ、あぁあ!! ああーっ!!」

「っく、ふはっ、だらしねぇ顔だな、山伏サンよぉ?」

 指とは比べ物にならない圧迫感が、肉襞をシコリごと押し潰しては擦り上げる。山伏の下半身は完全に脱力し、同田貫が腰を抱え漸く立っている状態だった。巧く呼吸できない苦しさに喘ぎ、舌を突き出し空気を求める。

「――っは、あ゛ッ、ま、うごっか、っな」

「俺を煽ったんだ、自業自得って、奴だぜッ!」

「ッやあぁあっ!! ぁああーっ!!」

 山伏の瞳は蕩け切って焦点が合っていない。体格に見合った立派な陰茎からは、奥へ突き入れられる度に少量の粘液が吐き出されては、割れた腹筋へ当たっていた。

「オラ逃げんなよ! 俺はまだ全然足りねぇ、満足させるんだろうが!」

 胎内を蹂躙する同田貫に萎える素振りは一切なく、抽送の動きは激しく疾く、強くなってゆく。ゴリゴリと窄まりをこじ開け、泥濘んだ密路は啄ばんでは収縮し、肉刀へ吸い付いて放さない。山伏の意思とは関係なく、躰が同田貫を受け容れていた。もはや抗うことなど出来ず、必死に縁へしがみ付いては嬌声を迸らせる。

「ひッ、ふあ、ぁ、んああっ!」

「ちゃんと立てよ、こんくらいでへばってんじゃねぇ、ッよ!」

 打ち付けを止めずに、同田貫は手を振り上げた。尻を打ち据えられ、痛みとナカへ響く感覚に、涙が溢れては頬を伝い、白濁と共にぱたた、と地面を濡らしてゆく。

「叩くたびに締め付けてるぜ、このッ……変態が!」

「ひがっ、ひゃっ、っやめ、え゛っ」

「違わねぇよ!」

「ッ――!! っめ、ごめ、なひゃっ、ゆるっひ、ひゅ、」

 尻が赤く腫れてしまうまで、両手を使い殴打される。揺さぶられるまま動く陰茎は腹に付きそうなほどに勃ち上がり、震えていた。

「ッ今更謝ってもっ、おせぇんだよ!!」

「~~ッ♡♡ ひゃぁあああん!!」

 腰を掴み固定され、強く最奥を穿たれる。山伏は限界まで背を仰け反らせ、激しく躰を痙攣させ絶頂した。視界は火花が散る錯覚でチカチカと眩しく、絶頂と同時に内壁も収縮し同田貫は呻きながら腸内へ吐精した。

「っはは……ケツだけでイッたな? 山伏アンタ、もう間違いなく“メス”だよ」

「ひぅ、う、ぅっ……」

「俺だけのメスにしてやるよ……もっと、俺だけに見せてくれよ、だらしねぇ、みっともなく女みてぇにヨガるアンタを」

 泣きじゃくる山伏を同田貫は赦さない。完全に肌蹴け、液体に塗れた服を脱がされ放った上へ組み敷かれる。仰向けの躰に伸し掛かられ、下穿きも剥ぎ取られると脚を持ち上げられた。白濁が溢れる淫蕾を晒され、唯一意思表示の出来る首を振って拒んでも、余計に煽るだけだった。

「アンタは俺のモンだ、俺だけの」

「ッ――あ゛、はひっ……はっ、はへっ、ッあ゛あ゛ぁ!!」

 ぐずぐずに蕩けた蜜孔へ、再び摩羅が突き立てられる。浮遊しかけていた意識を引き摺り下ろされ、眼を見開いてはぼろぼろと泣きながら、山伏は喘いだ。

「好きだ、山伏ィッ……!」

 一突きごとに、同田貫を刻まれる。摩羅の味を、形を覚え込まされ、ゴリュゴリュと押し拡げられ。深く、深く、限界を超え、咥え込もうとする己の躰が、恐ろしかった。

「っひゃら、もぉっやらぁっ、げんか、っ――あああぁっ!! ッお゛っ、お゛ぁあ゛ッ!!」

 幾度目かの絶頂。凶暴なまでの快感に、山伏はいつしか、自分から腰をくねらせ、快楽を強請っていた。絶頂に曝される間も腰は止まらず、波の引く前に再び高められる。

「イッ、イ゛ッへ、イギすぎへおか、はへっ、オ゛かひぐッ、んお゛ッ♡ お゛お゛ッ♡♡」

「狂っちまえよ、俺に……俺だけを、ッ見てくれ」

「ひギッ……う゛あ゛、え゛あ゛ーっ♡ ぉぐっ♡♡ ゴリゴリってぇ♡♡ ナカれッくっひゅい、えひゃつ♡♡」

「っは、っ……く、っ山伏――山伏ッ」

「っ、え、あっ……」

 山伏は名を呼ばれ、反射的に見てしまった――同田貫が、己を泣きそうな顔で見下ろしている。必死で腰を振り、縋り付いてくる。それを見た瞬間何かが弾けた。求められている。強引ではあれど、同田貫の向ける想いは、酷く純粋なのだ。

「ひっ……はっ、あ、あぁ!!」

 それは悦び。電流の様に躰中を駆け巡り、全身を満たしてゆく。嗚呼、もう、戻れないと気付いてしまった。快楽が濁流となり押し寄せ、何もかも浚ってしまえばそこに残るのは、満たされた心。山伏は同田貫の腰に、己の長い脚を絡ませる。律動に動きを合わせ、深く繋がって、このまま一つに融けてしまえばいいとすら思った。

 ゾクゾクと、熱い楔を打ち込まれているのに背を這い上がるのは寒気だった。臨界を越え、絶頂と余韻の感覚すら麻痺し、躰を痙攣させながら山伏は愛しい者の名を呼んだ。

「っろ……田っ貫――!」

 視線が混じり合う。どうしようもない倖せな心持のまま、二振りは同時に、一際強い絶頂を迎えた。

「うっ、あ――……!」

「っひ……あ、あぁ……っあああぁ――……♡♡」

 唇へ落とされる柔らかな感触を甘んじて受けながら、山伏は意識を手放した。

 

 乱れた呼吸を整えないまま、同田貫は気絶した思い人だった男を見下ろす。今日からは情人となる者だ。鞘として扱われるとは思っていなかったらしいが、初めてであそこまで乱れるなら素質は十分にあるんだろう。

 液体に塗れた躰を清めねば、と同田貫は苦も無く巨躯を抱き抱えると歩き出した。体系は小柄でも、人間の男とは桁違いの腕力を有している。

「な、山伏サンよ……人を見かけで判断しちゃ、いけねぇよ」

 衆道、稚児趣味。男色は知識でしかない。行為の主導権が逆転したあの瞬間を思い出し、同田貫は、にやりと口を歪ませる。しかし気絶した山伏は、それを知ることはなかった。


 

 
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