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大きな掌※3P



 

 

 自分が兄だと知ると、自然と年少のものの面倒を見たくなるものだと、誰かが言っていた。

 

 それは早朝、朝日が昇り世界を遍く照らす六つ刻から始まる。綺麗に二つ並べられていた筈の乱れた布団がもぞもぞと動き、未だ心地よい微睡みに揺られる呻き声一つ。もう一方は自分の腕を枕に、起きてはいてもその双眸は閉じられていた。

「――良い朝であるなぁ。鶯も鳴いておる」

 枕元に胡坐を掻き独り頷く太刀が一振り。戦場での装束を纏い、開け放たれた襖から朝の爽やかな陽光が差し込む。後光の様に背に陽を受け、晴れ渡る空に似た溌剌とした笑みを浮かべ声量を抑え囁く。

「とうに夜は明けたぞ。他の者は起き出し、もうすぐ朝餉も出来よう」

 山伏国広は慈しむ様な眼差しを向け見下ろし、優しく頭を撫でる。

「御手杵殿、同田貫殿」

 大らかに微笑み、ゆっくりと名を呼ばれた二振りはそれでも起きる気配はない。昨晩遅くに遠征から帰還した御手杵も、ほぼ一日誰かと組み手をしていた同田貫もくたくたで、介抱した山伏もまだ寝かしておきたいという心を鬼に、常と同じ時刻に起床を告げに参ったのだ。朝餉だけは皆で一緒に摂りたいと言う審神者に賛同し、早起きの主に合わせ他の者は既に卓に着いている頃。自分達のせいで折角の朝食が冷めたとあっては申し訳が立たないと、板ばさみ状態の山伏は小さく唸る。

「そら、皆も待ちわびておるぞ。おぬしらも腹が空いておろう?」

 二振りの頭をがしがしと掻き、宥め賺せつつも声量を上げてゆく。山伏の顔から笑みが徐々に消え始めたことに、恐らく気付かぬままの御手杵は暢気に生欠伸をし、同田貫は無言のまま寝返りを打つ。起きる気配のない様子に業を煮やした山伏が一転険しい顔へ豹変し、辺りに響く怒号を浴びせかけた。

「――いい加減に起きぬか!! 朝餉抜きになってもよいのか!」

「ぅあっ?!」

「……ちっ」

 素っ頓狂な声と共に飛び起きた槍と、のそりと起き上がり舌打ちした打刀が、山伏のげんこつを食らったのは言うまでもない。

 

 なんとか皆で朝餉を済ませれば、あとは各々が出陣や遠征に繰り出し、更に内番や演錬への出征を除けば残っている者は十に満たない。その一振りである山伏国広――高錬度の他の古参らは夜戦に駆り出された初太刀は、審神者の苦手な事務仕事を肩代わりしており、政府への報告書作成や経費やらの計算中である。

 山伏の両脇には大型犬と狸が――御手杵と同田貫が引っ付いている。突き放そうものなら片方は不機嫌に、片方は悲しげに見つめてくるものだからもはや諦め、大の男三人で並んで文机に座っていた。傍から見るとえらく滑稽である。本丸へ同日に顕現し錬度も揃いの彼らは回想での発言曰く“無用の長物”コンビ、略して無用組と呼ばれており、世話係を任せられた山伏へ懐いている。

「なぁいつ終わんのー?」

「おぬしがその質問をやめたときであろうなぁ」

「えー!」

「……」

 左横でなぁなぁと騒がしい御手杵とは逆に、右横を陣取った同田貫はじっとりと、面白くなさそうに山伏を見ている。傍らにぴったりと張り付いて動かず、一挙一動を凝視されるのは、それもこの様な間近でというのはあまり気分のよい話ではない。

「……ど、同田貫殿あまりそう睨みつけてくれるな、集中できぬ」

「……睨み付けてねぇよ。瞑想ん時は気付かねぇ癖に」

「それはそれ、これはこれである」

「なんでぇそりゃあ」

 無愛想に頬杖を付き、同田貫は今度は山伏の頬を指で突っつき始めた。山伏を挟んだ向こう側からも、御手杵に「面白そう、俺もやる!」と両側からつんつん、ぷにぷにとちょっかいは止まらない。

「やめぬか」

「やーだね」

「やわこいな~」

 他愛もないじゃれあいも、二振りが己に懐きまた同じ様に、己も心を許し好ましく思うが故のことだ。今朝方の様な場面以外では強く叱れないのもまだまだ甘いなと苦笑が漏れる。

「ほんの少し静かにしておればすぐ終わろうよ、さすれば打ち込みに時間も割けよう?」

「!」

 割り振られた内番のうち手合わせはなく道場が空いていた筈だと、ご褒美をちらつかせれば分かりやすく瞳を輝かせ同時に大人しくなるものだから山伏は堪え切れず噴出した。


 

 「ただ手合わせをするんじゃ身が締まらねぇ」と、同田貫は勝ち数の多い者の言うことを聞く、と呈した。それじゃあいっそと御手杵が、模擬刀の準備をする山伏を見る。

「なぁ山伏! 俺とたぬきでさ、より多く取った方の言うこと聞いてくれるっての、どうだ?」

「む?」

「成る程ね……そっちのが面白そうだ」

 渡された模擬刀の感覚を軽く振って確かめ、同田貫が不適に笑う。自分の本体より大分短い木刀を軽々と手首で回しながら、御手杵は世話係を見下ろした。

「うむ、何か褒美でもあれば身も入ろうな。よかろう、拙僧に出来ることであれば」

 よっしゃあと分かりやすく士気を上げる二人を微笑ましく眺め、山伏も朗らかに笑い返した。

 

「――そこまで!」

「ッなんと……おぬしらも本当に、強くなったのだな……」

「お前のおかげだよ」

 組み手の終了を告げる御手杵の声に片膝を付く。結果はといえば、山伏は一番勝ち数が伸びなかった。多少手加減はしたものの、後半からの勢いには完全に気圧され、対して特に同田貫の調子が頗る良くほぼ無敗であった。

「くっそ、俺ももう少しだったんだけどな」

 どて、と尻餅を付き、御手杵が大の字に横になる。僅差ではあれ、相方に一歩及ばなかったのが悔しいのか長い手足をばたつかせた。

「いやはや、あっという間に抜かれた訳か……カカカ、本丸は安泰であるなぁ」

 座り込みしみじみ呟く山伏へと、同田貫は無言で手を差し出す。鍛錬とはいえ全力で打ち込み、自信と満足感に満ち足りた顔は晴れやかで眩しいと目を細めながら握手を交わした。

「――……それで、褒美の件だがよ」

「応、なんであろうか?」

「今夜……お前を抱きてぇ、改めて」

 汗を拭っていた手が止まる。見下ろす男の顔は真面目で、からかいではないと察するも言葉が浮かばない。

「いつまでも逃げないでくれ、俺は、これでも本気なんだよ」

「――同田貫殿……」

 “あの晩”の出来事は、夢ではないのだと、どこかで認めたくなかった。だがそう、あれは紛れもない事実なのだ。

 あの晩、新しく進軍した戦場を制した宴で、山伏も珍しく酒を飲まされ酔っ払っていた。同じく酔っ払っていた同田貫と御手杵に連れられ自室で飲んでいた筈が、気付くと陽も昇りきった昼ごろ目を覚まし、酷い頭痛と共に下腹部の違和感に首を捻った。後孔の痛みとその後数日二振りが己を避けていたこと、微かに記憶に残っているのは、己を見下ろす二人の上気した顔――身を強張らせた山伏へ伸びる手を、御手杵が制す。

「おい、抜け駆けかよ。俺だって、山伏……あんたが欲しいんだ」

「御手杵殿……」

「あん時は俺達も酒の勢いでやっちまったと後悔した、が、お前は離れることはなかった。拒絶しなかった」

「どういうことか理解してるつもりなんだよ、もしかしたら、あんたの優しさに付け込んでるだけなのかもって……」

 悲痛に歪む顔が逆光で影を色濃く落とし、固く握り込んだ拳は震えている。

「それでも俺は――俺達は、お前の特別になりたいんだ」

「……」

 もう限界だろう。考えないようにしていた、忘れようと思っていた。己は山伏の名を冠すもの。父の誇りを背負い、何事も修行と受け入れた。しかし人とは、心とはなんとままならぬのか。

「おぬしらは――とうに拙僧の“特別”であろうよ」

 脆さを弱さと思っていた。心の乱れを、精神の起伏を、守るものを失う恐怖で震える切っ先を、己が弱さと決め付けていた。

 しかし人は同時にとても強いのだ。限られた時を生きながらも、人と寄り添い守りたいと思う気持ちは時に、なにものよりも強大な力となりうると知った。己が主や兄弟と、仲間と共に暮らし共に戦うことで、只管修行に明け暮れ戦場で散らすだけと思っていた己が刃生を誇らしく思えるようになったのだ。永遠を願うほどに、眩い大切なもの、溢れてしまいそうな全てを手のひらで包み込もうと。それは間違いなく、この本丸で過ごすうち芽生えた山伏自身の変化だった。――そして自分自身には嘘も吐けないとも痛感する。漸く観念したと突然山伏は豪快に笑い声を上げた。ぽかんと見つめる二対の双眸が同時に瞬く。

「怖かったのだ。受け入れることで、自分に言い訳が出来てしまう。喪うことが恐ろしくて、逃げていたのだろう……拙僧は弱い」

「そんなこと……」

「己一人では何も出来ぬ弱い自分を認めたくなかった者の、どこが強いというのか。おぬしらに甘えてしまっていた……拙僧はもう逃げぬ。もっと強く在りたいのだ。全てを守り抜く為に。かけがえのない仲間と共に、誰よりも強く」

「……当たり前だ。俺は折れねぇ、誰も折れさせやしねぇ」

「あんたは強いよ、山伏。弱い奴は自分を弱いなんて認めねーもん」

 伸べられた手を今度こそ拒むことなく、力強く引き寄せる男に身を預ける。御手杵が差し出した掌に自分のそれを重ね、柔らかく微笑んだ。

「……して、その、改めてではあるのだが。衆道は詳しくない故、応えられるかは分からぬが……ふ、不束であるが、よろしく頼み申す……」

 顔を赤らめ、常より大分か細くぽそぽそと恥らう山伏に、二振りは耐え切れず笑い転げ困惑させた。


 

 

 夕餉と湯浴みを済まし、山伏により念入りに人除けのされた室内には芳しい香が焚かれている。

 

「っふ……ぁッ、はっ」

 閉じる機能が壊れた様に、山伏の開きっぱなしになった口からは涎と共に抑えた声が漏れ出ている。順番に二人を受け入れた後孔はどちらともつかぬ白濁が垂れ、熟れ切って自重と共に同田貫の魔羅を深々と咥え込んでいた。

「ッは……もっと、声聞かせろ、よ」

「んッ、は、気味がっ、悪かろっ、よ……」

「何言って……は、すっげ、エロいんだぞ、そっの、掠れてる声、我慢してンの」

「こん、な、無骨者を捕まえてッ……ッひ、あぁぁっ!!」

 浮ついた腰目掛けて同田貫の魔羅に奥を穿たれ、背が弓なりにしなる。甘い艶を帯びる声をもっと聞きたいと激しく揺さぶられ、肉壁を抉られる度に快感に躰が跳ねた。

「見ろよ山伏、んむっ……乳首、腫れてきてる。女みてぇに」

「そっ、それはおてぎねろの、んっ、が……く、ふぁっ」

 山伏は仰向けの同田貫に後ろ向きに跨り、御手杵と口吸いを交わしながら胸を弄られている。散々弄繰り回され色付いた乳首を捏ねられ、ぷっくりと赤く腫れ敏感になった粒から下腹部へ、擦られる内壁から脳天へ、断続的に強烈な快感となって駆け上がった。

「もっともっと声、聞かせてくれ、よ……俺達で乱れてんの、最高だぜッ」

「っひ……ふあっ、やぁ、あ゛あァッ!」

 低く掠れた“雄”を感じさせる同田貫の声が程近く、背後から聞こえた。体勢を変えなお勢いは更に強く激しく、肉襞を圧し拡げては逃げる腰を捕らえ注挿を繰り返す。

「んぐ、なんかあんた、スゲェいい匂いだよ……甘くて美味くて、溶けちゃいそうだ……」

「んむっ、んく……ぁ、んっ!」

 快感に跳ねる躰を御手杵に抱き竦められる。迸る嬌声ごと舌を絡め取られ、歯列をなぞり深く吸われる。甘い痺れが躰中を巡り、熱を溜め込んだまま理性を浚ってゆく。最早思考するなどという余裕もなく、言葉にならない喘ぎが、ひっきりなしに赤く腫れた唇から漏れては二振りの鼓膜を揺さぶった。

「ひ、んっ……んん、ぁあッ、ひ、あっ……!」

「はっ、くそっ……気抜くとッ、持ってかれちまいそうだ……!」

「んっ、ヒい゛ッ……め、もぉッ駄目だもう、や、ぁああ……!!」

 躰を限界まで反らし山伏が身を硬くする。内壁が搾り取る様に蠢いては吸い付き、内腿が痙攣を始めた。同田貫が呻き最奥を抉る様に突き入れ、御手杵も乳首を思い切り強く吸い上げながら片方も強く引っ張り、脈打つ陰茎同士を擦り合わせた。

「ひっ……ひぃ、や、やっ……ッあ゛ぁ!」

「グッ……はっ、く!!」

「すげぇビクビクしてる、な、分かるかッ……?」

「ッる゛、なにかクるッ……っひ、イくっイ゛ッ――んぅああぁっ!!」

 山伏は大きく仰け反ったまま、ビクビクと全身を痙攣させ絶頂した。勢いのない白濁がトロリと溢れ、触れ合った山伏自身と御手杵の陰茎を伝うと、更に菊蕾から溢れた同田貫と交じり合う。

「――っは、はぁっ、ん、ぁくッ、はっ……」

 山伏は詰めていた息を一気に吐き出しながら全身を弛緩させ、御手杵へとしな垂れかかる。昼の禁欲的な様相から一変、理性をかなぐり捨て、見栄も外聞もなくあられもない艶姿を淫靡に晒され、年若い男の付喪神が元気を取り戻さない筈もなく。

「なっ、なぁっ、次、次俺な、いーだろ?」

「ッ……」

 こくり、と頷くと山伏が腰を浮かせる。同田貫の短くも太い魔羅でみっちりと拡がった窄まりから、ぬちゅりと水音を響かせ陰茎が引き抜かれた。物欲しそうに開いたままの口へと、休む間もなく御手杵の槍がすんなりと呑み込まれてゆく。

「ッん゛ん……あ、あ゛っ!」

「あんたのナカすげぇ熱いよ……熱くて滑ってて、吸い付いてきて……」

 ぐずぐずに蕩けた肉襞を、規則的に剛棹が穿つ。吐き出しても留まり続ける熱は意識を浮つかせたまま収まることなく、力の抜けた躰が布団に沈んだ。仰向けから右半身を仰け反った格好で下半身を抱えられ、先程より擦られる箇所が変わりより深く貫かれ、逃れる術もなく喘ぐしかなかった。

「ひっ……は、ひあっ! あ゛ッ、ぉっ!」

「あ、これやべ……ちんこくっつきそう……」

 後ろ手に付き胡座を掻いていた同田貫が山伏へ口を寄せる。合っていなかった焦点の合うのを見下ろし、彷徨わせていた手を取った。

「おい、俺のも抜いてくんねぇか……見てるだけで痛ぇくらいなんだ」

「あ、っ……あぁ」

 怒張が眼前に迫り、噎せそうな独特な臭いと白濁のこびり付いた陰茎に唾を飲み込んだ。直前まで己を貫いていた雄の象徴は萎える素振りもない。触れた指先から脈打つのが分かり、口を開け舌を突き出し待ち構えた。撫で摩れば如実に反応を返す魔羅を、滑る咥内へ招き入れる。

「んむっ、ぁむっ、ぅ、んぐ……ん゛うっ」

「ぅあ……ッこれやべ、すげぇ……」

 虚ろに荒い息を吐きながら腰を振る同田貫を見上げれば脂汗を垂らしている。山伏は時折奥を突く御手杵に揺すられながら、口を窄め派手に水音を立てズルズルと棹を舐った。

 山伏の健康的な肌は汗や白濁に塗れ、色濃く揺らめく迦楼羅の彫物が妖しく脈動するかの様に見える。濡れた深紅の双眸が婀娜めいて細められ、口を窄め扱きながら強く吸い上げられる。血よりも赤い瞳に見据えられた途端下腹部へドッと血流が移動する気さえし、巧みな緩急に溜まらず腰が浮き、かと思えば陰嚢を揉み込みながら裏筋、亀頭を刺激された。同田貫も負けじと口腔を衝く勢いを強め、ピンと勃ち上がった乳首を抓る。

「ふう゛ッ……ん゛うっ、んんぅ……!」

「っぐ、油断してっと……出しちまいそう、だッ」

「うぅ、あー……やばい、ほんと、うん」

「ひぅッ……んあッ! や、あぁあッ!」

 激しい注挿の同田貫と異なり、御手杵はぴったりと腰を合わせたまま小刻みに揺り動かしている。先程が寄せては返す激しい波であれば、今はじんわりと高められゆっくりと上り詰める感覚に似ていた。いまや山伏の思考には霞み掛かり、求められる悦びに躰は震え、体内を満たす二本の剛直を吸い付き締め上げては甘い嬌声を上げた。

「ッぁん……っひ、あう……ん、ふあっ……」

「なァッ山伏……」

 片脚を抱え上げ、御手杵が顔を寄せる。長い雁首が最奥を引っ掻き息を止めた山伏の頬を、優しく大きな掌が撫でた。項垂れ目を瞑っていた同田貫も視線を落とし二振りを見下ろしている。

「きもちいか? ちゃんと俺達で――きもちいのか?」

「っふえ……」

 あまりに唐突な、少なくとも山伏にとっては唐突な質問であった。見上げる御手杵の顔は不安と快楽の入り混じった表情でなんとも奇妙に見え、溜まらず噴き出した。同田貫も微妙な貌のまま動きを止め、熱っぽい二対の視線が太刀へと降り注いでいる。

「幾らなんでもっ……今更ではないか? っふ、く……ははっ」

 同時に疑問符を浮かべ首を傾げる様子が酷く愛らしくて、山伏はいつもと変わらぬ微笑を湛え御手杵と同田貫の頭を撫ぜた。ぽかんとした表情のまま大人しく撫でられる二振りが互いに目配せし、だって、と口を開く。

「俺達ばっかりきもちいんじゃねぇかってさ……」

「……がっついちまっていけねぇ。お前があんまり、その……」

 今更になって羞恥が芽生えたのか、幾分か落ち着いたのか同田貫は顔を赤らめ、指で頬を掻いた。ゆっくりと撫で続けながら、胸を満たす暖かな感情に身を委ねる。多幸感と身を焼く悦楽に身を任せてしまえば、驚くほど素直に言葉が溢れ出す。己は何と恵まれているのだろうか。

「拙僧は実に、果報者であるなぁ……この様に求め愛されて、喜ばしくないものがおろうか?」

 あまり買い被ってはいかぬぞと、二振りの首へ縋りながら耳元で囁く。上気した顔を隠すためだがあまり意味はなさそうだ。早鐘を打つ心音が、己も入れて三つ分。

「き、気持ちよくなければ……いくら拙僧とて拒絶する。それに、んっ……今も、これでも必死なのだぞ?」

「っ……」

「おっおう、俺も結構限界……動く、ぞ?」

 御手杵がゆっくりと律動を再開させ、動きに合わせて山伏も腰を動かした。その間も同田貫の陰茎へ指を這わせ扱いてやる。同田貫は山伏を抱えたまま唇を合わせ、啄ばむ様に口付けを落とし、耳を食み愛撫を施している。触れられれば痺れる様に熱を孕み、内を暴く自身の一突き一突きが躰中へ快感の電流となって貫いた。

「ふあっ……ひ、ぃっあ! あ゛ッ、んああっ……ぁう、ん、んんッ!」

「は、はっ、山伏、山伏……!」

「や、やぁあっも、もうッ……やっ、やらあぁ……!!」

 最早山伏の感じるのはただ“悦び”だけであった。浮かされた意識は何もかもが綯い交ぜで、焼き切れてしまいそうな、だというのに寒気すら起こす心地に身を震わせる。

「あぁ山伏……可愛いよ、ほんと、堪んねぇよ」

「好きだ、山伏……!!」

「ッ――!!」

 チカチカと火花が飛んだのは幻覚か、それとも錯覚か。視界が白け、己の上げたみっともない嬌声が遠くなる。一瞬意識を飛ばしたと気付いた時には、あの晩と同じ様に上気した二人が見下ろしており、一つ違うのは、その表情は嬉しそうであったことと。

「ッ同田貫殿……御手杵殿……」

 己の浮かべているであろう貌も同じであろう、ということ。

「せっそおもすきだ……すき、である……」

 二人を受け止めた最奥がきゅうん、と切なく疼く。己一人では埋められない虚しさを、二人が埋めてくれたのだ。息せき切って溢れる止められない感情のままに、譫言の様にすきだ、すき、と繰り返した。

「はぁ……あ……さ、さすがに疲れたぜ」

「……?」

「正直、俺も眠くなってきた……緊張したせいか」

 今度疑問符が浮かんだのは山伏の方である。あちらから煽っておいて先にへばるとは、何と無責任なことであろうか。あ゛ーとかう゛ーとか仰向けで唸る同田貫へ馬乗りに乗り上げるとぐい、と山伏は顔を近付けた。

「っな、なんだよ……?」

「も、もう草臥れたのか……? 夜はまだ長いのだぞ?」

「ッ!?」

 山伏の涎と白濁に塗れ上気した貌はぞっとするほど端整で美しく、赤く煌く瞳を片方眇めて笑っていた。見せ付ける様に舌なめずりし、首だけを擡げ呆然と見つめる御手杵へ視線を動かす。

「拙僧をこんなにした悪い子は、まだまだ夜更かしをしたかろう?」

 ぞわり、と快感にも、恐怖にも似た何かが駆け上がるのと、二振りが生唾を飲み込むのはほぼ同時であった。その晩、とっぷりと夜の更けるまで濃厚な目合いの続いたことは言うまでもなく、そして翌朝は三人揃って朝餉に寝坊したことも、大方にして予想が付くのであった。


 

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