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※2016年発行さにぶしアンソロジー寄稿文web再掲

※JK審○者(ふた○り)×山伏

――――――

 ゆっくりと寝間着を寛げた審神者から山伏は視線を逸らした。熱を持った華奢な筈の腕に己の手を取られ、導かれるまま引き寄せられる。羞恥に顔を赤らめた山伏はぎゅうと瞑目したまま息を呑んだ。

 ある筈の無い感触が、拍動が、指先に伝わる。確かな質量を持った雄の象徴が、審神者の――“彼女”の股間に鎮座しており、驚愕に肩を震わせ見開いた深紅の瞳と、情欲に潤む少女の円らな目が交わる。

 己の名を呟く主の濡れた視線に、山伏は抗えなかった。

 

比翼

 

 

 活発な審神者が珍しく寝坊したと、その日山伏は一人きりの修練から帰参した後耳にした。年若い女人である主には危険だと幾ら断っても、修行に付いて来ようとする少女を突っぱねる気も無くなり久しい、彼女の審神者就任一周年の祝いの宴を終えて早々の、霧雨と曇天が立ち込める初夏の肌寒い日であった。

 山伏が眉尻を下げ嘆息する。閉ざされた襖の向こうから唸り声が届いた。これでもう何度目だろうか。山伏がいくら声を掛けても、審神者は入室を許可せず立ち往生している。当に陽は沈み、昼間の空気とは違う寒々とした夜風が宝冠の端を揺らした。

「主殿……いい加減開けてくれぬか」

 返事はないが、衣擦れの音と、気配が移動したのが分かる。微かに聞こえるくぐもった呻き声に山伏が慌てて襖へ手を駆けた。

「熱があるのか? 主殿……大事無いか」

「……近付くな……」

「主殿? ……主殿?!」

 焦燥に掻き立てられ左右を見渡した途端、音も無く戸が開き山伏はがっしりと首を捉えられ引き摺り込まれてしまう。細腕に布団へ引き倒され、何処からか芳しい香が鼻腔を擽る。顔を上気させた少女の顔が間近にあった。

「朝からずっと熱くて仕方ないんだ……」

 少女は切なげに眉根を寄せて抱き付いてきた。弱々しく縋るその身はじっとりと汗ばんで熱を持っている。山伏は何も言わず、審神者のさらさらとした黒髪を撫ぜた。陽を浴びて快活に笑う面影は鳴りを潜め、裳着前でありながら見事に霊力を操り、審神者として務めを果たす彼女の素を垣間見た気がした。

「力の抑えが効かねぇんだ……」

 山伏は一目で深刻な状態に陥っていると気付いた。朦朧と視線を彷徨わせる少女の躰から漏れ出る強過ぎるほどの霊力は、数日と持たずこの人間を衰弱させてしまうだろう。燃えるように熱い彼女に寄り添ううち、遠い日の記憶が呼び覚まされてゆく。父より魂と共に鉄を打たれ、心地良い炎に熔け、一つになる感覚。己が確立されてゆく朧げな記憶だった。

「ッ……」

 突如息を荒げ、乱暴に審神者が自らの寝巻を肌蹴た。山伏が咄嗟に首を背けると、首筋に息が吹きかけられる。光源の無い寝室は薄暗く、それでも余計な物のない簡素な寝室が窺えた。主の腕を拒めず、誘われるまま少女の躰へ掌を寄せた。

「どうしよう、俺いくら女っ気ないって言ったってさ、こ、これ、あれだろ?」

 少女の腕程もあろうか、立派な陽物を山伏は息を呑み凝視した。

「俺……おかしくなっちゃったのかな」

「主殿、これはまた……」

 脈打つ怒張は本来男にのみ〝生える〟ものだ。しかし不安げに近侍を見上げる少女の表情に揶揄う素振りは無く、赤黒い摩羅の熱もまた偽りなく本物である。

「主殿、これは拙僧の憶測に過ぎぬが……主殿のそれは恐らく、溜め込まれた力の暴走であろう」

「暴走……」

「どうにか発散させる必要がある」

 俯き、己の股間を見つめる審神者を山伏もまた黙して見据えた。気付けば随分と近くに少女の顔がある。濡れた唇から、言霊が転び出た。

「……山伏」

 すまない、とそう呟いた声は掠れていた。

 頭を抱え込まれ、眼前の魔羅へ押し付けられる。興奮して息を荒げる審神者を、山伏は真っ直ぐと見据えた。

「謝るのならば」

 常と変わらない、落ち着いた低音に少女が竦む。

「謝るのであれば、こんなになる前に拙僧を呼んでくれ」

 山伏は眼を細め、微かに笑んだ。諫める響きは無く、頬へ添える少女の手を取ると優しく口付けた。慈しむ眼差しが主へ注がれており、自然な動作で宝冠をしゅるりと解くと主の帯を外した。

「拙僧が鎮めようぞ、何……案ずるな、是も近侍の務め故」

 淫蕩な色を湛え、一瞬にして色香を纏わせる山伏に、審神者はごくりと喉を鳴らし、震える指を近侍へ伸ばした。

 

 

 

 

 ちゅう、と可愛らしく音が鳴る。両膝を付き這い蹲る山伏が、少女のいきり立つ竿を愛撫している。頬擦りをしながら竿の根元へ舌を這わせ、唇を折り込み敏感な亀頭を挟み込み、肉厚な舌で舐り始めた。

「ぅあっ……く、う」

「んくっ、ふぁ、はっ……ぁむ」

 滓こそ無いものの、鼻につく生臭い雄臭と喉奥を突く苦味に嘔吐きだした山伏に、後ろ手を着いていた審神者が腰を上げかける。伸びかけた手を制し一旦口を離した山伏が、垂れる涎を拭いもせずに口を開けた。

「んっ……は、カカカ、主殿の魔羅は立派であるな」

 舌先でチロチロと鈴口を刺激し、両手を使い茎を擦り上げては、口に入りきらない主人の雄を慰めた。時折見上げては苦痛を感じさせぬよう、自らの鍛え上げられた胸も使い奉仕している。

「んちゅ……ふあ、えぁ」

「あ、凄ェ……うあ、漏れちまう」

「これふぁ、ひが……違うのである」

 派手に水音を立てながら、溢れ出る先走りを啜る山伏が、口内で脈打つ陰茎の予兆を感じるや否やキツく扱き出した。溜らず腰を浮かせて喘ぐ審神者を抑え、快楽に喘ぐ顔を見上げ満足そうに微笑むと、止めとばかりに喉奥まで咥え込むと血管の浮き出た脈動へ舌を這わせた。

「離れてくれ、山伏……っも、もう」

「良い、出ひふぇくえ」

「駄、目だ……出、る、出ちまうッ……!」

 ビクビクと痙攣し喉奥を突きながら、審神者が勢いよく射精した濃厚な白濁を口で受け止める。口の端からは飲み込み切れなかった粘液が滴っている。

「……治まらぬな」

「…………」

 未だ股座に鎮座する欲望を睨みつけていた審神者が、意を決して山伏の肩を掴んだ。真剣な眼差しに押し黙った近侍の顔に影が落ちる。

「……だ、まだ、足りねぇ……ごめん、俺――おまえに、挿れたい」

 興奮に上擦った声、荒い吐息は熱を孕み、膨れ上がった霊力に侵され情欲に塗れた瞳に、顔が上気した己が映っている。腹に収めた審神者の種が、下腹部へと拡がり、全身を蝕み脳天へと快楽に染め上げてゆく。

「……主殿」

「嫌、だよな。……ごめん、忘れてく――」

「否」

 主の震える手を取り、粘つく先走りの張り付いた胸元へ誘う。見開かれた瞳から視線を逸らさずに、高鳴る心音を聞かせあった。触れ合わせた指越しに温もりを共有する。心地良い波が、理性を、羞恥をゆっくりと崩落させてゆく。

「その、何だ……よもや拙僧が女子役とは、思っておらなんだ」

 恥じらいを滲ませ、山伏がいつになく小声で告白した。突如己の身にどうしようもなく湧き上がる情動に戸惑い、燻る熱情を手酷くぶちまけてもなお、この太刀は受け容れてくれるという。諦観でもなく、ましてや自棄でもない。痴情に頬を染め、覚悟を決め引き結ばれた唇は、僅かに震えていた。

「この様な武骨者故、上手く夜伽を務められるか分からぬが……」

「何言ってんだ、おまえは可愛いだろ!」

 真っ赤な顔で怒鳴られ、剣幕に気圧されぽかんとしていた山伏は、言葉の意味をゆっくりと理解すると顔をぼっと赤らめた。

「それに、俺はおまえを無理矢理抱きたいんじゃない。夜伽だなんて、言うなよ」

 頬をむくれさせた審神者の貌は紛うことなき少女の姿で、男勝りで凛々しい彼女の一面を垣間見た優越感で、近侍は小さくはにかんだ。

 

 

 枕に顔を押し付け、尻を高く掲げた格好で山伏は審神者に菊座を弄られている。両手を付いた姿勢は五分と持たず腰砕けになり、細くても確かな質量を持ち割り開き胎内を蠢く異物を、ゆっくりと息を吐き受け入れた。時折内壁を擦る感覚に腰がヒクつき、固く両拳を握り込み耐える。

「ふっ……ぅくっ」

「ナカ熱いな……痛くねぇか?」

「っは、へ、き、であ、っう」

 違和感は最初だけで、審神者の指が入り込んでいるという事実に、じんわりと充足感に思考が麻痺してゆくのを感じる。気を抜けば膝が震え、へたり込みそうなのを堪えた。

「熱くて蕩けそうだ、指だけなのに、ヤベェ……」

「はぅ、ん、ぁ」

 後孔から絶えず水音が漏れ聞こえ、鼓膜を犯す。しとどに濡れた菊門は呼吸に合わせくぱくぱと啄ばみ、奥へと誘いこんでいるようだった。

「ッは、い、挿れる、ぞ」

 十分に濡れそぼった菊蕾に、赤黒い肉の茎が宛がわれる。山伏は顔だけを後ろに向けると、小さく頷いた。

「……ぁ、主殿ならば、良い、のだ」

「ッ! も、我慢出来ねぇッ!」

 めり、と厭な音が響いた。じわじわと楔が押し込められ、圧縮されるような心地で山伏は息を詰める。圧迫感に引ける腰を審神者が引き寄せ、やがて呻き声と共に侵入が止まり、最奥まで突き入れられたと理解した。

「凄ェキツいのに……熱くて、絡みついてくる……」

 譫言のように陶然と呟く審神者が、静かに動き出した。肉襞は審神者に設えたように吸い付き、肉棒を捕らえて放さない。

「はひっ、んぁ、あっ……ぃあ」

 初めてとは思えない、強烈な快感が山伏の狭い肉路を押し拡げ理性をこそげ取ってゆく。ねっとりとした律動に翻弄され、内腿が痙攣しだした。血の滲むほど噛み締めていた口唇が俄かに戦慄き、あられもない嬌声が迸った。

「ぃヒッ……、ぁァッ!」

 ギュウギュウと締め付ける肉壁は螺旋を描きながら淫靡に蠢き、強張るように艶めかしく収縮を繰り返している。

「っく、焼け切れそうだ……」

「ッア! おッ……ぅあっあ、あぁあッ!」

 思考は桃色の霧が掛かったように朦朧とし、与えられる甘美な淫楽に身を委ねた。激情に耽溺し脳内を甘い痺れが駆け抜けてゆく。幾度も身を貫く強烈な快感に、山伏は悲鳴に近い嬌声を上げた。

「ひあっ……ぁ、ぐ、変ッだ、おかしっこんな、はじ、っめぇっ!」

 身を捩り快楽から逃げる躰を審神者が軽々とひっくり返した。ぐるんと視界が反転し、乱れる少女の黒髪が翻る。両足を抱えられ、逃げ場の無い躰を上から押さえ付けられ、更に突き上げる速度が速まる。低く獣に似た唸り声を上げ、快感を貪っていた審神者が、口角を釣り上げた。

「あぅっ、主ッどの……!」

  審神者は眼前の鍛え上げられた胸板と、ぷくりと腫れた乳首に吸い付いた。山伏の上気した躰は全身が赤く染まり、慣れない胸への愛撫に身を捩るのも構わずに主はじゅう、と吸引した。赤い乳輪に軽く歯を立て挟み、舌で転がしつつ舐る。刺激を受け充血した紅色の肉実は勃ち上がり、擦られる感覚にも敏感になっていた。

「んやっ……やぁ、っそこ、はっ」

「可愛い声だな……女の子みてぇだ」

 ぐちゅぐちゅと尻孔を抉ると同時に乳首を嬲る、見上げる審神者は雄の貌をしている。存在しない筈の下腹部の奥、蜜壺が疼く錯覚にゾクゾクと背筋を強張らせた。

「あるじろのぉッ……あっぁるひっ」

「可愛いよ山伏……山伏ッ!」

 力強く抱き竦められ、揺り動かされるまま主へと身を任せた。

「ぁるじどの、にっ……なか、にっ……!」

「山伏、好きだ! く、うお……!」

「あ、あぁあああ……!」

  どろどろに熔かされ、熱を注ぎ込まれ、昂ぶりが身を穿つ快感が躰を突き抜ける。山伏は大きく背を仰け反らせ、全身を痙攣させ絶頂した。声にならない艶声が唇を戦慄かせ、長い脚を絡ませ縋り付いた。

「出ッ……出すぞッ山伏!」

「ぅあ……ッあぁああああ――ッ!」

 胎内を蹂躙していた剛直が一際深い部分を抉り貫き、脈動を感じた次の瞬間煮え滾った白濁が溶岩めいて噴出した。

「く、ぅ……!」

「ッ……ぁあっ、あぁ……!」

 山伏は連続で気を遣ったようだった。肉襞が引き締まり白濁を啜るように妖しく蠢き、弓なりに仰け反った躰がのたうって喉が嗄れそうなほど泣き叫んだ。

「う、ぐぅっ……」

 陶然と余韻に浸り、緩み切った貌は恍惚にうっとりと注がれ続ける子種を受け入れていた。 息も整わないうちに二人は顔を寄せ合い、啄ばむような口付けを交わした。離れ難く数度交わり、どちらともなく舌を絡ませ合い口吸いを続け、幸せそうに笑い合い微睡みに身を委ねた。

 

  ……………………

  ………………

  …………

 

 重たい瞼をこじ開け、山伏は主が布団に顔を擦りつけ土下座していると気付くと首を傾げた。

「あるじどの……?」

 情けなくも声は嗄れ、慌てて審神者が吸口を取ってきた。冷たく心地良い水が喉を潤し、落ち着くと共に昨夜の痴態を思い出し、腰の痛みに呻いた。

「山伏、ごめん」

「謝ることは無いのだ、主殿」

「……まだ、治まってねぇんだよ、実は」

 萎えてはいたが、雄の肉塊はそのまま股座に存在している。己も主も汚れは拭き取られており、介抱を感謝するとバツの悪そうに乱暴に頭を掻いた。

「あのな、俺は……ずっと前から、おまえのこと雄として手に入れたいと思っていたんだ。多分、これもそのせいで……」

 微妙な沈黙が流れる。山伏は手を付いて審神者へと凭れかかると、眼を閉じて呼吸を合わせた。とくとくと高鳴る心臓が、己の心音と合わさるのを感じた。

「拙僧は刀で、主殿は人間である、役目を持ち、戦場を駆ける。人は皆、違うであろう?」

 理解出来ないと首を傾げる少女を見上げ、艶然と微笑むと指を絡ませた。

「立場や信条、思想が違えど、理解し合うことが出来よう。言葉を持ち、心を持ち、伝えることが出来る。主殿が教えてくれたことだ、主殿に与えられたものだ」

 指通りの良い黒髪へ指を通らせ手櫛で梳く。甘やかな香りを吸い込み、薄紅に色付く頬へ唇で触れた。審神者は不安げに近侍を見つめている。

「求められ、嬉しかった……許されるのであれば、拙僧は、」

 やんわりと口を塞がれ、遮られ言葉を飲み込む。

「付喪神に、神様に、人でありながらこんなこと……でも、この気持ちは本当なんだ、嘘は付けねぇ……。山伏。俺は」

 キツく手を握り込まれ、顎を捕らえられる。視線は真っ直ぐと山伏の深い赤を見据えた。

「俺はおまえが好きだ。おまえと、ずっと一緒に居たい。俺の嫁になってくれないか」

 それは酷く真摯な告白だった。言の葉が全身を伝い、温もりに包まれる。

「許されないことかもしれない。平穏に過ごせないかもしれない。それでも、俺はおまえと共に生きたい」

「主殿……」

 堰を切って流れ出た涙を優しく掬われ、もう一度口を吸われる。頭の芯が甘く痺れ、山伏は素直に快感を受け入れると微かに身を震わせた。

「今度、二人だけで祝言を上げよう。俺は何もあげられないけど、おまえとこれから先もずっと、一緒に笑っていきたい」

 山伏は静かに頷くとはにかみ、審神者へと抱き付いた。

 過去を守る使命を帯びた彼らの、未来への希望。自らが綴ってゆくものだ。とある初夏の爽やかな日差しの下、二人はひっそりと永久の契りを交わした。その日空には、比翼の鳥が悠々と舞っていたという。

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