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モブに売られたLv.1山伏国広の話

 
 最初に拍動を感じた。次に内を流れる血潮を。眩い光に手を翳し瞼を閉じる。人の身を得、冷たく重い本体を己の手で握るという奇妙な違和感も、すぐに消え馴染むだろう。
 確たる意思を持ち瞳を開く。その眼前に広がる光景に山伏国広は絶句する。
「ああぁ! イッ……んあああ!」
「奥に出すぞ! しっかり受け取れよ!」
 薄暗い室内には人間が数人と、恐らく己と同じ様な刀剣の姿がある。皆一様に衣服を纏っておらず、二人或いは数人ずつで、雑多に引かれた布団の上に寝転んでいた。自らを顕現させた霊力を無意識に探し、内に注がれた霊力の持ち主が居らぬことに首を傾げた。それに、奇妙なことに、一番手近な一組の内一人は。
「あぁ~! 山伏クンの口マン○最高だよお!」
「ン゛ン゛! う、ん゛うぅうう!」
「中に出すよ! 全部飲み込んでねっ」
 名を呼ばれる前、歪んだ横顔を垣間見た瞬間本能的に理解した。あれは己だ。二回りは差があろうかという脂ぎった小太りの男の胡坐に顔を押し付け、くぐもった声を上げている。直後、何か液体が端から溢れ、嘔吐きながら必死に飲み込む様を呆然と見つめた。
「お、新入りだね。二振り目ってやつだ」
 痩せ細った男がニタニタと笑みを浮かべにじり寄ってきた。鼻息荒く胸元に頬を摺り寄せ、ズレた眼鏡の奥弧を描く視線が全身に纏わりついた。怖気が走るが顎を捕えられ、男の口臭が鼻腔を刺激し山伏は怪訝な顔を浮かべる。
「……ここは一体……主殿はいずこか?」
「ボク達がアルジドノだよぉ、キミのご主人様だ」
「っ……拙僧は、主殿に喚ばれたのだ。目通り願いたい」
「居ないよ、キミの主は、ボク達だ」
 気味の悪い笑みだ。嫌悪感に身を粟立たせ、正座を崩し後ずさる。それも非力である筈の人間の腕が、首に金属の輪を取り付けたために逃げ道が無くなってしまう。人の身を得、最初に覚えたのが恐怖など。意思を持ち、心を持ち、内に刻まれた父の矜持を踏み躙られ、使えるべき新たな主の姿も無く、山伏は混乱に肩を震わせた。
「これはキミには必要ないよ」
「っか、返せ……! それは拙僧の、」
「もう遅いんだよ! お前は売られたんだ、こうして拾ってやらなかったら朽ち果てていたんだぞ、感謝したらどうだ!」
「そ、んな……」
 伸びてきた腕に本体を無理矢理離され、乱雑に放られてしまう。伸ばした手を細腕に捻り上げられ、痛みに目尻に涙をため睨み上げる。途端癇癪を起こした様に語尾荒く怒鳴られ、唾を吐きかけられた。訳も分からず首を振り、重い鎖で繋がれた首輪ががしゃりと音を立てた。
「抵抗してみろ、お前の代わりなんていくらでもいる。無様に折られたくなきゃご奉仕するんだな」
「返してくれ、主殿の、所へ」
「つべこべ言わず股を開けよ、もう一人みたいによお!」
「ヒッ……! え、あ……っ?」
 股間に生温い感覚が広がる。顔を青ざめ、眼を見開き固まった山伏を視線を追い、男がニタニタと笑みを深めた。
「フヒッハハ……! お漏らしか? イケナイ子だ」
 息遣いと水音だけだった室内に、数人の人間の乾いた笑いがあちこちから上がる。粗相をしたと気付き羞恥に顔を染め上げ、山伏は俯いて押し黙った。恥ずかしい事なのだと思い知り、顕現されて間もない太刀はべったりと張り付く濡れた股間を黙って見つめるしか出来ない。薄鼠色の洋袴のそこだけがくっきりと濃灰に染まり、耐え切れず雫が頬を伝った。猫撫で声で男が濡れた頬を、ベロリと舐め上げた。
「お仕置きが必要だな……?」
「あっ……」
 腕を引かれ、男の露出した股間に顔を押し付けられる。赤黒いそれは山伏は知らないが、強烈な異臭に顔を顰め、顔を背ける。抵抗できず、男の手でがっちりと頭部を押さえつけられ、生臭い臭いに嘔吐く。宝冠ごと掴まれ、空いた手が器用に結袈裟や鈴懸を肌蹴させてゆく。
「舐めろ」
「はっ……これ、は、一体」
「粗相をした罰だ、さっさとやれ」
 下卑た笑みで醜悪な顔を歪ませ、吐き捨てる様に男が命令する。その間も、男の背後では派手に背を仰け反らせ、名も知らぬ同類が泣き叫んだり、全身を白濁に塗れさせ痙攣するのが見え、恐怖で震えた。もう一人の己である山伏は先程から寝そべる男の上で腰を振り、背後で別の男もぴったりと腹を合わせている。
「ッ……は、」
 逃れる術を知らない太刀は観念して恐る恐る顔を近付ける。つんと鼻腔一杯に広がる刺激臭に、膨れ腫れ上がった悍ましいそれが何か解らず、眼前で脈打つ逸物を前に固まってしまう。

――だ。厭だ。こんなの、おか し い
「早く舐めろ。摩羅を鎮めるのも修行、なんだろ」
「っ相……分かった」
「噛み千切るなよ」
「……っん、んぶ、ぅ、」
 男の言葉が理解出来ない。理解したくもない。早く終わらせたいと、少しでも受け入れられない現実から目を背けるため視界を閉ざし、おずおずと舌を出し怒張へ触れる。恥垢がこびりついた皮の蛇腹をちろちろと赤い舌が弄り、鼻筋の通った端正な顔に男のごわついた陰毛が張り付いた。裏筋を震える舌が上下し、張った玉袋をやわと撫で、唾液で幾分滑りの良くなった男茎が小刻みに震えた。
「舐めるって言ったがな、そうじゃない」
「……ひがぅ、のか」
 肉竿が離れ、油断した。山伏は目を開き、同時に口内一杯に男の剛直を突っ込まれ驚愕に赤い目を見開く。
「ん゛お゛っ?! ぅぶ、ん゛ぐう゛ぅ……!」
 息が出来ない。口腔を蹂躙され、無遠慮に掻き回され、喉奥へ雁首が突っかかり蓋をする。息苦しく、顎の外れる程の巨根を舌で押し返す。その時尖った犬歯が男の肉茎を掠めた。
「ッ痛ぇな! 歯立てるなって言っただろうが!」
 痕が付いたらどうしてくれると怒鳴り散らし、男が山伏を突き飛ばした。突然解放され、一気に肺に空気が送り込まれ、ひゅうひゅうと息を吐き男を見上げる。
「フェラもまともに出来ねえのか! あ゛?!」
「っなさ、ごめっなさい……ゆるし、て」
「……まぁ、いい。これから巧くなってくれればね」
 恐怖に震える山伏を見下ろしまた気味の悪い笑みで顔を歪ませ、男は尻餅を着き晒された滑らかな肌を乱暴に撫で付ける。かたかたと震える山伏は視線を泳がせ、引き締まった躰を撫でる手に耐えていた。
「じゃあ、本番と行こうか」
「ほん……? な、にを、す、」
「見分け付かなくなりそうだから、宝冠は外すなよ」
 首輪が重い音を響かせ、服を剥ぎ取られた躰を布団に押さえつけられ。未だ、男達が何をしているのか理解に至らない山伏は、派手な嬌声が上がる背後を振り返った。
「お゛ほっ♡ん゛お゛っ、お゛っ♡イ゛ッ♡」
「山伏クン最高だよ!!」
「オラッ出すぞ!!」
「ぉぐっ! お゛ぐれッこふれへぇ♡あ゛っ♡い゛ひっ! ひい゛い゛い゛っ! ぐっ、イグう♡」
 涎と白濁に塗れ、締まりのない顔で己が嬲られている。よく見ると肉棒が二本深々と突き刺さり、屈強な男が尻たぶを掴み抱え上げ、ぶくぶくと太った男が愚鈍そうな見た目にそぐわず高速で腰を打ち付けている。絶え間なく掠れた嬌声と水音が上がり、躰の焔が、全身が赤く染められ、のたうっていた。
「っちょおらいっ♡なかに、たくひゃんっ……♡」
「いいぜ、たんと受け取れッ!」
「お腹一杯に満たしてあげるよっ……!」
「え゛あ゛っ♡あ゛、あ゛ん゛っ! あ゛ぁ~ッ♡♡――っじ、ろの、主殿ぉ♡」
「――……ッ!!」
 今なんと。違う。違う。その男らは、主殿ではない。男に媚び、艶めかしく裸体をくねらせるもう一人の己を、蕩けた顔で笑う太刀を、同じ存在であった筈のそれを、ただ、茫然と見つめた。
「くっ……!」
「ッイけ……!」
「ひあ゛ッ♡ア゛づぃひッ! い゛くっ♡まらいっひゃぁあ゛あ゛! んい゛い゛いっ♡♡」
 汗や涙が混じり合い濡れた顔で限界まで背を仰け反らせ、殆ど叫ぶ様に喘ぐ。激しく揺さぶられ、躰は痙攣し強張ったまま、半勃ちのままの自身からさらさらとした液体を垂らし続けていた。何かとても悍ましいものを見たと目を逸らすのと、窄まりに何かが宛がわれるのは同時だった。
「ひ、っ、な、にをして、やめっ……!」
「キツキツなケツマ○コだね、おじさんのチ○ポで解してやろうね!」
「やめろ、やっ……やぁああ!!」
 メリ、と音がした。何の準備もされず、いきなり楔を打ち込まれ、入る筈も無く入り口は裂け無残に血液が滲みだした。息が詰まる。異物感と圧迫感、躰が裂けそうな痛みに打ちひしがれ、舌を突き出し、涎を溢れさせ、ついに山伏は泣き叫んでしまった。
「ぬ゛けッ……や゛、お゛あ゛ぁ……! う゛あ゛っ……」
 瞬いた先から涙が溢れる。いやだ。痛い。苦しい。穿つ摩羅が躰を割り開き、白濁と交じり泡立つ血液が桃色に染まる。山伏の陰茎が勃つ筈も無く、男が竿を扱くが反応はない。
「ぎっ……だ、あ゛! 痛いっい゛だい゛ぃ!」
「キツイってもんじゃねぇ、喰い千切られそうだ……! 痛いだろう、これを使えば」
 小刻みに内壁を擦り上げる動きを止めずに、男が小瓶を揺らす。赤と青の錠剤が乾いた音を立てた。そのまま一粒錠剤を取り出し、眼前に掲げた。
「このお薬を飲めば、あそこで善がってるキミみたいにキモチヨクなれるんだよ、痛い修行は嫌だろう?」
「や、厭だ、嫌、そんな、もの!」
 内股の痙攣が止まず、痛みが断続的に波となり押し寄せる。何も考えられない。早く終わらせたい。それでも、残った僅かな自我が、理性が、堕ちることを拒む。
「一粒で極上、三つ摂めば昇天するような快感を味わえるんだよ。癖になっちゃうんだ、夢中で一瓶開けちゃうくらいにね」
 男の視線を思わず追う。じゃらじゃらと唾液と錠剤が赤くうねる舌の上で踊っている。
「おくすり大好きだねぇ山伏クンは。おじさん達の○ンポとどっちが好きなんだい?」
「ぁはっ♡え˝あっ……どっちも好きぃ、良いっ♡きもひい♡」
「これがっ好きなんだろっ?! もっと腰触れよ!」
「い゛ひっ……っき、らいしゅき♡お○んぽらいひゅきぃい♡もっとぉ! もっとちょうらひぃ♡」
 気持ち悪い。何もかも、理解できない、何故こんなにも痛いのか、下腹部を膨らませ躰をしならせる派手な髪色の男が何を言っているのか、理解、したくない。首輪を引かれ、強引に男の指が侵入してくる。がり、と錠剤の潰れる音が無情に分かり、苦みの強い薬を吐き出せず嚥下させられる。
「った……っけ、たひゅけ、え゛あ゛っ……!」
 たすけて。逃れようと伸ばした腕は空を掻き、すぐに全身を疼きが、空虚感が苛む。男の一突き一突きが段々と快楽に挿げ変わり、唾液腺から水が溢れ布団を汚す。腰が砕け、痙攣しながら勃ち上がる陰茎が濡れた視界に入る。深く腰を打ち付けられ、奥を穿たれるごとに浅ましく肉鞘が収縮を繰り返し、強請る様に吸い付くのが分かった。作り替えられていく己が理解出来ず、幾度も爆ぜる快楽に押し流されつつも、山伏はただ首を振り必死に耐えようともがく。しかし勃ちあがり涎を垂らす自身に爪を突き立てられ、あっけなく絶叫を上げ果ててしまった。それから先は記憶が定かではない。脳裏に真っ白なものが押し寄せ、支離滅裂な言葉を涎や涙と共に垂れ流し、代わる代わる蹂躙の限りを尽くされた。泣き叫ぶすぐ近くで、元は同じ存在の筈の男が、狂った様に笑っていたのを覚えている。

 

 一体どれだけの時間、目合いを続けていたのだろうか。長い微睡みを経て意識を取り戻した後、死んだ様に躰を横たえる刀剣たちは皆一様に白濁に塗れ、山伏も乾き張り付く生臭い臭いに、ただ佇んでいたがふらりと立ち上がると外へ出る。首輪の鎖が届く範囲に外界への扉も無く、地下の様に外はいつまでも真っ暗で、何の臭いもしない。結界が張られているのだろうか、と、覚束ない足取りのまま、井戸の傍まで体を引き摺り辿り着くと水を汲み、頭から被る。痕跡の一切を消したい。汚らわしかった。
「っ……う、ぅ」
 裂けてしまった窄まりに指を刺し、注がれた種を掻き出す。何よりも、屈伏させられた己が恨めしかった。穢れてしまった。薬のせいだけではない。己が、未熟であったからだ。
 掻き出しても掻き出しても溢れ出る白濁は一向に出尽くされる事は無く、腸液と交じり、地面に染みを作っていく。山伏は静かに泣いた。声を殺し、何もかも、悪夢にしたかった。いっそ、狂ってしまえば楽なのだろうか。放られたままの本体が視界に入る。本体を折り己を破壊しようか。手を伸ばせばギリギリ届くだろう。それならば、この鎖を断ち切り、逃げ出せやしまいかと。
「…………」
 逃げて、そしてそれからどうする。自分は世界を、何も知らない。ここがどこかですら、何も。白濁に穢れた右手をぼんやりと眺める。口腔内に唾液が分泌され、続けてせり上がる何かを、外へぶちまけた。
「!! え˝っ……お゛う゛え˝っ……!」
 キモチワルイ。これは、これは。
 その夜。なにかが壊れる音がした。

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