七人のたぬ
たぬぶし
同田貫は特定の一振りでは無く集合体と改めて考えたところ、浮かんだパロネタです
元ネタは分裂ですが、収拾付かなくなりそうなのでご勘弁を。
キャラ崩壊甚しいギャグです。
たぬっぺ 熱血漢、怒りっぽい
たぬっち 明るく前向き、笑顔
たぬりん 優しい、泣き虫
たぬっこ のんびり屋
たぬさま 冷静、理知的。眼鏡
たぬぽん オネェ。
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同田貫は不機嫌だった。戦場以外での仏頂面に加えて傷痕の通る眉間にも深い皺を寄せ、縁側に胡座を組み外を睨みつけていた。
正確には、上空を。今にも雨の降りそうな曇天を、恨めしげに見上げていた。理由は単純かつ明快である。出陣は雨天順延であったのだ。
「雨ぐれぇで戦えねぇなんて……糞ッ」
本丸であっても決して手放さない半身を抱える。鞘の中で本体の反響する音が聴こえる。戦を求める獣の咆哮が同田貫の神経を粟立たせ、躰が震えた。
「……煩ぇよ、黙ってろっつってんだろうが」
ふと、同田貫は俯き喰い縛る歯の間から声を漏らした。昼間だというのに薄暗い辺りに人影はなく、雨の匂いの立ち込める以外は気配も一つ。
否。同田貫は己の内なる存在に対して言葉を発したのだ。この本丸へ顕現した時から、意識の底から時折声がしていた。刀工同田貫一派は実践刀として数々の作品を生み出し、この太刀は意識の内に、ある何振りかの刀剣の人格を持ち合わせていた。本丸でも一部の者しかその存在を感知出来ないが、次郎太刀が勝手に其々の名付けを行い、それで統一されていた。
其々が勝手に意識の中で喋りまくっており、物理的に耳を塞ぐ事もできず、余計に同田貫の苛立ちは積み重なってゆく。
数え切れないほどのものから、次郎太刀が名付けたのはそのなかでも特に特徴的な六の人格であった。それとも九十九神であるのだから神格であろうか。
『なぁせっかく非番なんだし昼寝しようぜ〜』
「しねぇよ、躰鈍っちまうだろうが」
刀の癖にのんびり屋でサボり癖のあるのは、たぬっこ。
『オイ戦は!? 血は何処だよォ!!』
「煩ェ」
喧嘩っ早く熱血漢なのは、たぬっぺ。同田貫はこの神格に一番近いが、本人は分かっていない。
『皆やめろよぉ……喧嘩はよくねぇよ……』
「なら引っ込んでろ」
グズグズと泣きべそをかくのはたぬりん。心優しく戦を苦手とする、しかしよく語りかけてくるし怖いもの見たさか何かだろうか。
『梅雨なんだし雨が降るのは当然だろう。何もこれからずっと出陣出来ねぇ訳じゃねぇんだし、』
「手前ェは話長ぇんだよ」
眼鏡好きは外道だと罵りそうな黒縁の伊達眼鏡を掛けているのは、たぬさまである。冷静で理知的な神格だが、如何せん話が長い。止めても喋る。
『おりじなるもさぁ笑え笑え! 笑えば空も晴れるかも知れねぇよ!』
「ねぇよ、てるてる坊主でも作ってろ」
底抜けに明るく前向きなのは、たぬっち。神格に躰があれば、同田貫の頬をむにょと摘んでいそうである。
『も〜なんでもいいからさぁ、甘味食べに万屋いきましょうよ〜』
「テメェはなんで刀やってんだ!?」
『あっキレた』
『きゃぁ〜怖〜い』
「俺の声でそれやめろっつってんだろ!!」
何故か居る一振りだけ女性的な神格は、たぬぽん。言わずもがな次郎と一番気があうのはこの神格である。次郎太刀は性格こそ男気溢れるが、割と見た目そのままな嗜好なのだった。
ひとしきり突っ込んだ同田貫は、主に最後のせいで息が上がっていた。意識下での会話なのだからわざわざ声に出す必要はないのだが、自分自身であり違う存在との会話は、深く入り込みすぎると自我の崩壊の恐れすらある為らしい。
「手前ェらいつもいつも俺に声かけてきやがって……戦以外でも黙ってられねぇのか?!」
同田貫の琥珀の双眸だけが、ギラついていた。痙攣の様に躰は震え、神格の幾つかはたじろいだ。
「今日という今日は全員黙らせて……」
「そこまでだ、一旦落ち着かれよ同田貫殿」
気配もせず、立ち上がっていた同田貫のそのすぐ後ろに立っていたのは花浅葱の髪の男。静謐ささえ伺える声は真っ直ぐと芯に響き、振り返った男を朱殷の双眸で見据え、もう一度山伏は「落ち着かれよ、同田貫殿」と、口元に微笑みを浮かべ静かに言い放つ。
「山伏……」
情人である山伏の顔を見た途端、ふしゅ、と何処からか空気の抜ける音と共に同田貫の顔から殺気が抜けてゆく。目線を下げれば、何時の間にか手を握られている。
『あらァ山伏ちゃんじゃない! アンタも甘味食べにいきましょうよ』
「そうしたいが、昼餉が入らぬからな、暫し待たれよたぬぽん殿」
『なら仕方ないわねぇ〜』
女性的神格がふ、と大人しくなる。
『山伏ぃ! 一緒に笑って空を晴れさせようぜ!』
「たぬっち殿は今日も良き笑顔であるな! その笑みならば御天道様も顔を出そうぞ」
『そぉかぁ? へへ〜』
陽気な神格が気の抜けた顔をした。
『笑顔一つで天候が変わるなどありえねぇ、そもそもここは異次元空間に作られている訳で本来なら審神者の手でいくらでも変えられる筈だろ、アンタもそう思うよな?』
「たぬさま殿、それは然りである。だがな、主殿にも儘ならぬものもあるのだ」
『確かにそうか……成る程』
ずれた眼鏡を上げ直し、冷静な神格は静かに頷いた。
『山伏、おりじなるが怖ぇんだよぉ……』
「カカカ! たぬりん殿も、拙僧と共に笑えばよかろう!」
『お、おうそうだな、わかった!』
泣き虫な神格は、袖口で涙を拭うとくしゃりと顔を歪めた。
『俺ァ戦がしてぇんだよ! 刀なら分かンだろ山伏ィ!』
「左様。人の身を得ようと、拙僧らは武器に変わりは無い。なれど手入れもまた必要であるぞ、たぬっぺ殿」
『折れたら終いだもんな、折れねぇけどな!』
好戦的な神格も、ニカリと笑い返す。
『こんな天気だしよぅ、昼寝でもしよぉぜ』
「たぬっこ殿は昼寝が好きであるなぁ! 瞑想の際は付き合おう」
『それじゃぁアンタ寝ないだろ〜?』
「拙僧は、おりじなる殿に用がある故な」
「?」
同田貫は次々と己の内なる意識を鎮める山伏を見つめていたが、不意に琥珀を覗き込んでくる朱殷に、頭上に疑問符を浮かべた。神格達の言うおりじなるとは己の事だが、はて、自分はこの男と約束の類をしていただろうか。
「主殿より言伝だ、同田貫殿、拙僧と手合わせ願おうか」
戦では無いが、付き合うてくれ。握った手をそのままに、柔らかく微笑む情人を見、あ、とかえ、とか、意味をなさない音を溢した。
「如何した? 着替えしに参ろう。それとも、同田貫殿は相手が拙僧だと不満か?」
山伏が若干拗ねた様に唇を尖らせ、同田貫を上目遣いに見上げた。その破壊力たるや。
「す、すぐ支度してくる」
「応! 楽しみだな、同田貫殿」
「そ、そうだな、腕がなるぜ」
「カカカカ!」
その時。顔を赤く染め、こくこくと頷く同田貫の意識下で、次郎太刀により名付けられた神格全員が、おりじなるを含め意見を一致させた。『『まったくこの男は最高だぜ』』と。一部『抱きてぇ』など疚しい呟きも聞こえたが、全て筒抜けだった山伏は悪戯めいた微笑みを浮かべ、おりじなるの耳元で「亥の刻まで待たれよ」と刹那閨での顔をした後、呵々といつもの笑い声をあげた。