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※2019年2月たぬぶしプチ発行本無配


 土下座の格好のまま、同田貫は開口一番謝罪を述べた。寝起きに覚醒前の思考ではうまく処理できずに、山伏は徐ろに首を傾げる。
「すまんかった……! 本当にすまねえ」
「……? ど ウ、した?」
 掠れ裏返った声に、気まずそうにそろそろと顔が上がる。昨夜ぶりの、そうだ、この刀に散々啼かされて、声も嗄らしてしまった。
「その、勘違いして勝手に悋気してさ、一緒に食おうとしてたのも、お前宛のもチョコ食っちまって……それから酔っ払って、それで。……襲っちまった」
 山伏は布団に包まったまま、訥々とした小声に耳をすませた。恋人越しの硝子戸からは、外の景色も遅い夜明けなんてとっくに過ぎて、積もった雪の表面が弱い日差しに溶けながきらめいている。火鉢にかけられた鉄瓶が湯気を噴いているところを見るに、己は結構な間眠っていたらしい。目が覚めたら懇ろの男士の土下座姿が眼前にあるというのは、些か奇妙である。
「そう……であるな、拙僧、禁酒中の身であったのだが」
 未だ思考はもたついて、告げられた言葉を噛みほどきながら瞬く。常より大分甘い匂いと酒に、真っ赤な幼い顔立ちが、情欲に獣じみて迫ってくる映像が脳内に蘇った。同田貫が酒に弱いのは周知の事実だ。酩酊するほど飲む前に寝てしまうのだが、とそこまで思考してふと気付く。
「……覚えておるのか?」
「お、おう、その、実は途中からあやふやでよ……」
 同田貫は酔って記憶を忘れる性質だが本刃は嫌らしく、宴席もよく抜け出す。
「お前がめちゃくちゃ甘くてエロかったことくらいしか覚えてねえ……ほんとにどこ舐めてもんまくてさ、あっ、噛んだり……はしてねえよな、見当たらなかったし」
「わ、分かったもういいっ」
 羞恥に耐え切れず静止して、熱を帯び始めた頬を布団へ擦り付ける。処理してくれたのだろう窄まりが切なく締まったことは、黙っておく。腕の力のみでにじり寄りながら、同田貫は意を決したように口を開いた。
「なあ、俺も禁酒するぞ」
「おぬしは元々飲まぬではないか」
「じゃあ、あ、甘いもんを……」
 捨てられた仔犬めいて、震えながら『禁甘味』を宣言しようという口へ、指先で触れる。
「よい、おぬしが我慢するものではない」
「そ、うか……?」
「我欲を押さえつけ過ぎたところで、余計爆発するのみよ」
 己も昨夜身に沁みた。律するために酒を控え、欲を抑えたとて、他ならぬ恋人を蔑ろににする結果になってしまったのだ。硬めの毛髪に出来た寝癖部分を漉きながら撫で、金の眼を細める様を眺める。
「禁酒の誓いも、実のところ拙僧自身の修行不足が故」
「そうか……そういやあ、そもそもなんで禁酒してんだ?」
「……話したくない」
 わかりやすく見えるだろう、罪悪感の手前余計にぎこちない仕草。目を逸らし、鼻先まで布団へ埋もれてしまえば、くぐもった声は低く小さい。が、この近さなので聞こえただろう情人は、ムッと片眉を上げた。
「おい何だよ話さないつもりか? そっちがそのつもりなら……こうだっ!」
「? ぬおっ、こっこらやめ……っ」
 同田貫は悪戯めいた表情を浮かべたと思えば、布団へ潜り込んできた。何も着ていないこちらへ手が伸び、脇腹をくすぐられる。
「おりゃおりゃっ!」
「っふ……やめろっく、っふは……っカカ」
 同田貫の手は暖かく、戯れとわかるほどに責める手は優しい。仕返しとぎゅうと抱き竦めれば、小柄でありながらもしっかりと逞しい腕で抱き締められた。互いに息を切らせ、温もりを共有する。
「……なあ、今日予定ないだろ? もっかい、な?」
 背に回された指先が背骨をなぞり、舌が鎖骨を舐め下へ伝う。唇で挟むように乳首を包まれ、すっかり敏感になった胸からじんと後孔が疼き出した。上目で見上げる双眸にも、己の目にもきっと同じように、情欲の焔を宿している。
「んっ……ぁは、っ仕方ないな」
 己も大概だ。緩く勃ち上がった陽根をそっと摩り合わせ、寄せられる口吸いを甘受する。節を分けたとて陽はまだ弱いが晴天であろうと他人事のように思いながら、ゆっくりと目を閉じ身を委ねた。

 

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