閑話休題、
「ッぁ……!」
「っぐ、ぅ!」
背をしならせて、大きく痙攣すること数瞬。ややあって吐き出された息は矢鱈と熱を持ち、もったりと褥へ沈んでゆく。頽れるように弛緩した躰を受け止めて、情人はキツく抱き締め返してきた。
「っはぁーーはっ」
「……一旦抜くぞ」
内壁を擦りながら質量が外へ出ていくと、起き上がり自身を覆う薄い皮膜を外しに掛かるのを寝転んだまま横目で眺める。白濁を閉じ込めた皮膜は口を封じられ水風船めいて膨らんで、無造作に放られると乱雑に脱ぎ捨てられた衣服の傍へ転がった。ーー勿体無いと思う。絶頂の余韻に浸り、ふわふわと浮ついた思考のせいと片付けてしまうには、余りにも短絡的だ。
「ん」
力の入らない躰を引き摺って、胡座をかき新しいスキンへ手をかける男へ身を寄せた。怪訝そうに向けられる視線を無視し、袋から出された真新しい避妊具を奪い取ると吐精したばかりの屹立を頬張る。鼻をつく青臭さは何度咥えても慣れるものではないが、そのままずるずると口を窄め刺激してゆけば、再び暴力的な楔は首を擡げた。
「……ん、ふぁ」
節榑立つ指が頬を擽り、労るように肌を撫ぜる。硬い指の腹に左頬の疵を擦られ、爪が食込んで僅かに走る痛みすら、焦れた快感に拍車を掛けてゆく。仕返しに切っ先へ舌を捩じ込んでやれば、折り曲げられた膝が分かり易く震えるのが伝わり喉奥で笑ってやる。やられた側は面白いわけもなく、腕を取られ褥へ押し倒される、そんな下らないやり取りもいつもの戯れの内だった。色濃く染み付いた天井が、眉間に皺を寄せる幼い顔の情人によって、汗に濡れる躰を嬲られる様子を見下ろしている。
「っ……」
自らの白濁がこびり付く腹の凹凸を、無骨な指が這い回る。捏ねくるまま、張り出した胸をまさぐる乱暴な愛撫にも、慣らされたこの躰は悦楽に置換する術を知ってしまった。電流が疾る儘に、みっともない嬌声が堪えきれず転び出ては、弄ぶ男を愉しませた。
「もっとだ」
強く光を湛える金月の双眸に射られ、菊座へ唐突に指が突き立てられる。途端強張る躰も、知り尽くされた性感帯を同時に甚振られては、甘やかな奔流に打ち震えるばかり。
「なんだーー手入してないのか」
「……?」
脚の付け根辺りを撫でながら、愉快そうに笑う声は常より高い。空気の足りない頭ではすぐに理解には及ばず、片脚を肩へ担ぐ男をぼんやりと見上げる。
「ぁ……あ!」
待ち望んだ質量に貫かれ、脳天を揺さぶられる。深く泥濘を掻き混ぜる杭は酷く熱く、引き攣る手が付け忘れられたごむを掠めた。肉襞を蹂躙する滑りが的確に弱点を突いては、戻りかけの理性を押し流す。
「ここ、疵付けたの知ってたか」
昂奮に上擦る低音に囁かれ、先程撫ぜられた内腿に指が這う。ぴりりと刺すような痛みに、傷痕を抉られたと気付く。律動をその儘に、戦慄く唇を唇に塞がれた。
「手入の度に消えるのだけ、この躰がもどかしい」
戦さ場から帰還する折り、血の匂いを纏わせる男が嗤う。瑕だらけの躰は昂り上気して、刀傷が浮かび上がり紅く色付く。手入でも治ることのない古傷を付けた相手へ悋気しながら、腕を、脚を絡ませ爪を立てた。
同じだ、と、唇のあわいから漏れ出た言葉は笑う男に呑み込まれた。